院長からのメッセージ

細菌性髄膜炎を防ぐワクチン二種(改訂版) 2010年08月31日(火)

   細菌性髄膜炎を起こす原因菌の80〜90%がヒブと肺炎球菌です。ヒブと肺炎球菌を防ぐワクチンは、すでに諸外国で定期接種として広く普及しており、今や細菌性髄膜炎を見る機会はほとんどありません。さらに二次的な効果として、ヒブと肺炎球菌による菌血症や肺炎など重症疾患の発生も著しく減っています。一方、日本ではワクチンの認可が大幅に遅れているため、今でも年間に約千人の子どもが細菌性髄膜炎にかかり、その四分の一が尊い生命を失ったり重い後遺症に苦しんだりしています。欧米先進諸国に比べて、日本のワクチン政策は約十年から二十年遅れています。その間に救えたはずの生命はすでに数百人にのぼります。この酷い実態は、厚生労働省の無為無策による人災と言えましょう。日本は諸外国から「ワクチン貧国」と嘲笑される始末です。最近になってようやく厚生労働省は重い腰をあげ、2008年12月にヒブワクチン(アクトヒブ)、2010年2月に小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー)を認可しました。この二種類のワクチンを接種することで、細菌性髄膜炎の85%は予防できます。

 しかしワクチンの接種方式は、定期接種ではなく任意接種の扱いにとどまっています。任意接種では子どもを完全に守りきることはできません。任意接種の費用は、公費助成を導入している一部の自治体を除き、全額自己負担です。ワクチンの接種費用は安価ではありません。ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンをそれぞれ4回ずつ接種すると、合計7万円近い支出を強いられます。今のままでは収入の格差が生命の格差につながる恐れがあります。大和市でも座間市でも、残念ながら公費助成はなされていません。昨年、大和市小児科医会の名前で公費助成の要望書を提出しましたが、財政難を理由に拒絶されました。今後も粘り強く折衝を続けてまいります。任意接種はまた、その重要性がなかなか理解されない難点があります。親御さんの多くは「定期接種は必要なワクチンで、任意接種はどちらでもいいワクチン」と認識されているのではないでしょうか。決してそうではなく、必要かつ重要なワクチンであることは、諸外国がワクチンの力で細菌性髄膜炎を過去の病気へと追いやった事実から明らかです。任意接種にとどまっているのは、国(厚生労働省)が単に怠慢で、子どもの健康を真剣に考えていないからです。現状では、細菌性髄膜炎の恐ろしさを知っている方だけがワクチンの恩恵にあずかっています。情報の格差が生命の格差につながっているのです。ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化は、必ず為し遂げなければなりません。

 去る2010年3月23日、「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」の代表者の方々が国会を訪れて、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化を求める請願書を厚生労働大臣に提出しました。全国から集まった署名は4万筆を超えました。当クリニックも微力ながら署名活動に参加いたしました。しかし党利党略が渦巻く政治の混乱の中で、せっかくの請願書はまったく審議されることなく破棄されてしまいました。2007年4月以降、ワクチンの定期接種化を求める署名活動は計4回行なわれ、延べ20万筆が衆参両院議長と厚生労働省に届けられています。しかしながら、一度として真摯に取り合ってもらえたことはなく、いつも有耶無耶のうちに葬り去られています。いやしくも先進国と称される国々の中で、子どもの生命をここまで軽視する国が他にあるでしょうか。ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化は、政治信条や思想を超えた、全国民に共通する緊急の課題であり悲願であると思います。今後新たな署名活動を行なう際には、皆様のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

 (2010年4月26日に初掲載。定期接種化を求める4回目の請願書が廃棄されたことを受けて改訂版を再掲載)
 

子どもの口と歯の健康 2010年08月25日(水)

   口や歯に関する質問を日常診療の中でしばしば受けます。小児科医として(歯科医に任せっきりにせず)口と歯の健康に積極的にかかわりたい、との思いでQ&A集を作りました。

Q1 舌の上全体が白くなって、拭いても取れません。治療は必要ですか?
A1 多くの場合、母乳やミルクの成分が固まって舌のシワに入り込んだものです。ときどきガーゼで拭いて清潔を保ちましょう。体調が良くない時、口の中に元々いるカンジダ(カビの一種)が増えて舌を覆うことがあります。カンジダに毒性はほとんどないので、心配はいりません。口の中を清潔にするだけで健康な舌に戻ります。
Q2 歯がなかなか生えてきません!?
A2 早い子は生後4ヶ月で、遅い子は1歳の誕生日を過ぎて初めての歯が生えます。平均すると生後8ヶ月です。1歳半で歯が生えていなければ、小児歯科の診察を受けましょう。
Q3 歯の生える順序に決まりはありますか?
A3 まず下の真ん中の2本、続いて上の真ん中の2本、その両脇 … の順序で生えますが、子どもによって順序が入れ替わることはよくあります。心配いりません。
Q4 前歯がねじれて生えていて、隙き間もあります。矯正は必要ですか?
A4 最初に生える下の2本の前歯は、しばしばねじれたり離れたりします。異常ではありません。また、乳歯には隙き間があるのが普通です。乳歯よりも大きい永久歯が生えるためのスペースが用意されているとお考えください。3歳以下で矯正することはありません。
Q5 噛み合わせが悪く、受け口のように見えます。矯正は必要ですか?
A5 奥歯がまだ生えていないか、生えていてもまだしっかり噛み合っていない時期は、下あごを前に突き出す動きがよくあります。異常ではありません。噛み合わせの治療は3歳を過ぎてから考えれば十分です。
A6 舌小帯短縮症あるいは舌癒着症といわれ、手術を勧められました!?
A6 「舌癒着を治さないと、呼吸障害や哺乳障害が治らない、突然死の危険もある」との触れ込みで手術を勧める医師の一派が存在します。しかし日本小児科学会は、治療の必要性と効果について医学的根拠がないことから手術の正当性を全否定しています。筆者(玉井)も日本小児科学会の立場に立ちます。もしも手術を勧められた場合、急いで同意せずに、信頼できる耳鼻咽喉科医または小児科医に見解(セカンド・オピニオン)をお尋ねください。
Q7 ときどき歯ぎしりをしますが、歯並びに影響はありませんか?
A7 前歯が数本生える時期に、上下の歯をこすり合わせて音を出すことはよくあります。将来の歯並びに影響ありませんので、そっと様子を見守るだけでよいでしょう。
Q8 歯磨きはいつから始めればいいですか?
A8 最初の歯が生えた時から始めましょう。歯の数が少ないうちは、ガーゼなどで歯の汚れを拭き取るだけで十分です。歯が上下8本くらい生えたら、歯ブラシを使うといいでしょう。
Q9 歯磨きを素直にさせてくれません!?
A9 子どもは口の中をゴシゴシこすられることを嫌がります。また、歯磨きの大切さをまだ理解できていません。歯磨きは楽しい雰囲気の中で遊びの延長として要領よく行いましょう。親子のスキンシップの一つと考えるとよいと思います。
Q10 上の前歯の間に帯状の盛り上がりがあります。これは何?
A10 上唇小帯といいます。傷つくと出血しやすいので、歯磨きの際に注意しましょう。もしも永久歯の歯並びに影響するようであれば、後々に切除を考慮します。
Q11 乳歯の虫歯を放っておいてはいけませんか?
A11 乳歯の虫歯の進行はとても早いです。放っておくと痛みや腫れを起こします。また、乳歯に虫歯が多かった子どもは、永久歯も虫歯になりやすいことが分かっています。
Q12 夜、寝る前に授乳したら、歯磨きをしないといけませんか?
A12 睡眠中は唾液があまり出ないので、歯についた糖分が残ってしまいます。虫歯の原因になるので歯磨きが必要です。
Q13 よだれの多さが気になります!?
A13 よだれは歯の生え始める頃から多くなり、2歳すぎに目立たなくなります。よだれが出なくなるのではなく、上手に飲み込めるようになるためです。よだれがなかなか止まない時は、鼻の病気(慢性鼻炎、アデノイド肥大など)がないか耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。
Q14 乳歯がすべて生えそろうのは何歳ですか?
A14 個人差が大きいですが、大部分の子は3歳半までに20本すべてが生えそろいます。
Q15 転んだ時に歯をぶつけました。出血してグラグラしています!?
A15 すぐに小児歯科を受診しましょう。また、転んだ直後は大丈夫でも、数日後に歯が変色したり歯ぐきが腫れる時も、小児歯科に行くべきです。もしも歯が抜けてしまった場合、水道水でさっと洗って牛乳に浸けて小児歯科に急いで行ってください。元に戻せることがあります。
Q16 おしゃぶりは歯並びに影響しますか?
A16 2歳半から3歳を過ぎても使用を続けていると、歯並びと噛み合わせが悪くなります。おしゃぶりはできるだけ使用しない方がよいですが、もしも使用する場合でも、言葉を覚える1歳を過ぎたらおしゃぶりを常時使用しない、遅くとも2歳半までに使用を完全に中止する、の二点を必ず守ってください。
 


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