院長からのメッセージ

メディアと上手に付き合おう 2011年07月24日(日)

   現代の子どもたちは、テレビ、ビデオ・DVD、携帯電話、インターネット、携帯用ゲームなど、多種多様のメディアに取り囲まれて育っています。メディアは便利である反面、子どもの心身の発達を妨げる要素を数多く含んでいます。とくに “メディア漬け” の状態は、子どもにとって “百害あって一利なし” です。メディアとの上手な付き合い方を考えてみましょう。

 メディア漬けがもたらす弊害の第一は、親子の愛着形成が阻害されることです。携帯メールを操っていたりテレビ・ビデオを見たりしながら授乳している(あるいは食事を与えている)と、子どもは親の目や表情を見たり親の語りかけを聞いたりすることができず、親に対する愛着が少しも湧いてきません。授乳や食事は、親子が触れ合う大事な場です。親がまずメディアから距離を置き、わが子としっかり向き合うことが大切です。

 メディア漬けがもたらす弊害の第二は、言葉の育成が阻害されることです。子どもの言語能力は、親との双方向の関わり合いの中で発達します。子どもに分かりやすく話しかけ、子どもの発語をゆっくり聞いて応えるという、生身の体験が必要です。実体験を伴わない、映像メディアからの一方的な通行だけでは、言葉は決して得られません。コミュニケーション力もつきません。日本小児科学会の調査研究によると、言葉の遅れや表情の乏しさを抱える子どもの中に、メディア漬けの生活を止めた途端に語彙が著しく伸びた一群があります。また、子どもが4時間以上テレビを見ている家庭やテレビが8時間以上ついている家庭では、そうでない家庭に比べて言葉の出現が遅れるという調査結果も出ています。

 弊害の第三は、情緒や生命感覚にゆがみが生じることです。幼児期からの暴力映像への長時間の接触が後年の暴力的な行動や事件に関係することが、日本や米国の調査研究で明らかにされています。また、相手を殺しても簡単にリセットできる仮想の世界に長時間さらされていると、現実の世界での生命感覚がゆがんできます。ペットが死んだ時に、「パパ、電池を入れ替えてよ」と言った5歳児の話は、可笑しさではなく恐ろしさを感じます。

 弊害の第四は、体力や運動能力の低下です。メディア漬けは外遊びや身体を使った遊びの機会を奪います。第五は、生活リズムの乱れです。メディア漬けは遅寝遅起きを助長し、慢性時差ぼけの状態を作ります。第六は、感覚の異常です。人工的で過剰な音や光の中に置かれて育つと、静寂な環境下で落ち着くことができなくなります。以上の弊害は、とくに乳幼児期に注意すべき項目です。学童期以降は、携帯電話・インターネット・ゲーム依存症の問題が新たに出てきます。

 メディアへの適切な対応は、生まれた直後から(あるいは赤ちゃんがお腹の中にいる時から)始めなければなりません。日本小児科医会はメディア対策として、以下の五つを提言しています。いずれも重要な内容です。皆様のご家庭におかれましても、ぜひご検討ください。
 @ 2歳まではテレビ・ビデオの視聴を控えましょう。
 A 授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴をやめましょう。
 B メディアに接触する総時間を制限しましょう。テレビは1日2時間まで(ゲームは1日30分まで)が目安です。
 C 子どもの部屋にテレビ・ビデオ・パソコンを置かないようにしましょう。
 D 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールを作りましょう。
 

ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン Q&A(改訂第二版) 2011年07月15日(金)

  本年1月に掲載したQ&Aの改訂版をお届けいたします。

<ヒブワクチン = アクトヒブ>
Q1 ヒブ(Hib)とはどんな細菌ですか?
A1 細菌性髄膜炎を起こすことがあります。日本では年間600人がヒブ髄膜炎にかかり、そのうちの20〜30人が死亡し、100人以上が重い後遺症(麻痺、けいれん、難聴、知能障害など)を残します。
Q2 新しいワクチンですか
A2 1980年代後半に実用化されています。現在100ヶ国以上で、国の責任下に無料で行う定期接種として子どもたちに行き渡っています。ワクチンの効果は劇的で、今やほとんどの先進国でヒブによる重い病気は見られなくなりました。これは後述する肺炎球菌も同様です。先進国から遅れること約20年、日本では2008年12月に導入されました。2011年2月から公費助成により無料で接種できます。
Q3 どんな副作用がありますか
A3 接種部位が赤く腫れたり、5〜10パーセントに発熱を生じたりします。重い副作用(強いアレルギー反応、痙攣など)はきわめて稀です。安全性の高いワクチンです。
Q4 何回接種しますか
A4  (1) 生後2ヶ月から6ヶ月まで;3回(4週以上の間隔)+ 約1年後に追加1回、 (2) 生後7ヶ月から11ヶ月まで;2回(4週以上の間隔)+約 1年後に追加1回、 (3) 1歳から4歳まで;1回のみ

<小児用肺炎球菌ワクチン = プレベナー>
Q1 肺炎球菌とはどんな細菌ですか?
A1 細菌性髄膜炎を起こすことがあります。日本では年間200人がかかり、そのうちの約20人が死亡し、60〜80人が重い後遺症を残します。ヒブ髄膜炎に比べて、頻度は低いですが、重症度は高いです。
Q2 新しいワクチンですか?
A2 小児用の肺炎球菌ワクチンは、米国で2000年から定期接種が始まりました。現在、世界100ヶ国以上で承認され、41ヶ国で定期接種に組み込まれています。先進国から遅れること10年、日本では2010年3月に導入されました。2011年2月から公費助成により無料で接種ができます。
Q3 どんな副作用がありますか?
A3 接種部位が赤く腫れたり、約10〜20%に38℃を超える発熱を生じたりしますが(ヒブワクチンより高い確率です)、重い副作用はきわめて稀です。安全性の高いワクチンです。
Q4 何回接種しますか?
A4 ヒブワクチンと若干異なります。(1) 生後2ヶ月から6ヶ月まで;3回(4週以上の間隔)+ 月齢12〜15ヶ月に追加1回、 (2) 生後7ヶ月から11ヶ月まで;2回(4週以上の間隔)+ 60日以上の間隔をおいて月齢12〜15ヶ月に追加1回、  (3) 1歳;2回(60日以上の間隔)、  (4) 2歳から9歳まで;1回(ただし、5歳以上には公費助成が適用されません。有料です)

<ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン 共通>
Q5  年少児の接種回数が多い理由は?
A5  ヒブや肺炎球菌を鼻粘膜に着けた子どものほとんどは、無症状のまま経過して5歳頃までに免疫を自然に獲得します(一般に肺炎球菌の方が遅れます)。しかしごく一部の子どもでは、これらの細菌が鼻粘膜から血液に入りこんで細菌性髄膜炎を起こします。年少児ほど免疫能が弱く、血液に侵入されやすい(髄膜炎を起こしやすい)状態です。実際、細菌性髄膜炎の70%は0歳児と1歳児です。したがって、できるだけ早い時期にワクチンを接種して免疫を獲得することが望まれます。
Q6  同時接種は可能ですか
A6  他のワクチンと同時に接種することが可能です。本数に制限はありません。たとえば三種混合とヒブと小児用肺炎球菌の三本同時接種が可能です。同時接種でワクチンの効果が減ることはなく、有害事象や副反応が増えることはありません。同時接種の最大の利点と目的は、子どもをヒブや肺炎球菌からできるだけ早期に守ることにあります。以上は日本小児科学会の公式声明でもあります。
 


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