院長からのメッセージ

声援と達成感とビールを求めて走る、走る 2013年04月21日(日)

                  <今回は医学情報ではなくエッセイ(駄文)です>

 本日、かすみがうらマラソンに出場して、生まれて初めて42.195kmを走りました。未知の世界への冒険旅行でした。記録は4時間28分44秒。サブフォー(4時間未満)を狙ってスタートから飛ばしたのですが、30kmの先に大きな壁が立ちはだかっていて、そこからは脚が思うように動かなくなってしまいました。最後は気力だけで前に進みました。フルマラソンの厳しさ、難しさを痛感しました。でも今は、完走できたことに深い満足を感じています。

 ランニングを始めたきっかけは、友人が語る東京マラソンの魅力でした。それまでマラソンなど遠い世界の出来事でしたが、熱っぽい話しぶりを聞くうちに、じゃあ自分もやってみようと無謀にも思い立ったのです。54歳での挑戦でした。練習を始めた当初は2〜3kmを走っただけで息が上がるし、足腰のどこかが常に痛いし、おそらく長続きしないだろうと予想していました。頑張ってみたり挫けたりを何度も繰り返す最中、「完走の後はコシヒカリを食べ放題」の宣伝に惹かれ、南魚沼グルメマラソンに参加してみることにしました。ランニングを始めて半年後のことです。いずれどこかで挫折するにしても、一度は大会に出て脚光を浴びたかったし、自分の走力を試してみたかったのです。申し込んだのは八分の一(5.274km)の部。現在の感覚では “たったの” 5キロ少々ですが、当時は不安と恐怖を抱かせるのに十分な距離でした。六月中旬の開催だったので、熱中症で倒れることも心配でした。制限時間の50分以内に完走できれば上出来、途中で棄権してもオーケー、と弱気なまま走り出しましたが、沿道から「まだまだ行ける!」「もっと笑って! リラックス!」などの声援に後押しされ、自分でも驚きの28分14秒で走破しました。本番のレースではアドレナリンが全開になるせいか、普段の練習以上の力が発揮されますね。ゴールラインを踏み越えた時の喜びは最高でしたし、参加賞の茶碗に盛ってもらったコシヒカリの美味しさは格別でした。茶碗は今も大切にとっています。

 八分の一マラソンでこれだけ感動するなら、フルマラソンを走り終えた時の感動は八倍かそれ以上に違いないと考え、その感動を求めて、以前よりも真剣に練習に取り組むようになりました。いきなりフルマラソンに挑むのは無茶なので、徐々に距離を延ばして足腰を鍛えようと、まず10kmマラソンに三つ、次いでハーフマラソンに三つ出場しました。そこそこの記録を出して自信を深めたところで、一年半にわたる練習の集大成として、先述のフルマラソン(かすみがうらマラソン)に出場した次第です。自分をここまでマラソンに駆り立てる原動力は何かと考えると、三つの要因が頭に浮かびます。一つめは、沿道から寄せられる声援です。皆さんが自分を応援してくれていると思い込んで、ヒーロー気分で走っています。二つめは、ゴールした瞬間の達成感です。走っている最中、苦しさに負けて歩きたくなった時は、「己に勝つ!」と呟いて自分を鼓舞します。頑張って走りきったあとは清々しい気分になります。三つめは、レース後に待っているビールとご馳走です。とくに自己ベストを更新した後の一杯は最高の美味しさです。つい、暴飲暴食してしまいます。今ここで過去に出場した大会の一つ一つを振り返ってみますと、走った距離に関係なく(幾分かは比例しますが)、胸躍る記憶の数々が蘇り、マラソンを始めてよかったなあと感慨に浸ります。

 マラソンは今や人生の友になりました。心身の健康にも役立っています。次の目標は、フォームの改造です。力任せに地面を蹴り上げる我流フォームでは、大幅な記録更新を望めないし、足腰の故障が絶えません。スピードアップを果たした後に実現したい夢は … アマチュア・ランナーの一流の証とされるサブフォーを今度こそ達成すること、それと、子どもたちが大喜びしそうな仮装で走ってやんやの喝采を浴びること … かな。
 

身長を伸ばすサプリメントは存在しない 2013年04月09日(火)

   「身長を伸ばす効果がある」と謳うサプリメントが新聞や雑誌やインターネットで宣伝されています。しかし、医学的に有効性が証明されたサプリメントは一つとして存在しません。皆様が誇大広告に惑わされることがないように、日本小児内分泌学会は以下の声明文を発表しました。ご参考になれば幸いです。

 生まれつき小さく成長曲線から大きく外れている、ある時点から急に身長が伸びなくなった、という場合、ホルモンなどの病気が考えられますのでご相談ください。小柄であっても成長曲線に沿って伸びている場合、病気の可能性はほとんどありません。バランスのよい食事をとり、健康的な生活を送っていれば、サプリメントをわざわざ摂取する必要はありません。

<以下、日本小児内分泌学会の声明文から>
1.カルシウム、鉄、ビタミンDを含んだサプリメント
 これらの栄養要素の不足により、もし成長が阻害されている場合には、栄養要素を補充することにより成長が正常化する可能性はあります。たとえば主に乳幼児期に発症するビタミンD欠乏性くる病では、成長障害がおこり、ビタミンDの補充により成長は正常に回復します。しかしこれらの栄養要素の不足がない場合には、これらの栄養機能食品を投与しても成長促進するという科学的なデータはありません。また多量に摂れば健康を損なう恐れがある一方で、成長が促進するという客観的なデータがありません。特にカルシウム製剤は、成長を促進すると思われていますが、骨を強くする作用はありますが、成長促進作用はありません。


2.成長ホルモンの分泌を促進するといわれている物質を含むサプリメント
 これらの物質のうちで代表的なものは「アルギニン」です。アルギニンはたしかに成長ホルモン分泌刺激試験の薬として用いられています。しかし、分泌刺激試験で用いる場合は、体重1kgあたり 0.5gという量を30分間で直接血管内に点滴で投与します。たとえば体重30kgの子どもであれば15gを投与するわけです。一方、現在サプリメントとして販売されているアルギニン製剤は、多くの場合に200mg〜2gの錠剤で、内服薬です。その全部が吸収されて血中に移行したとしても分泌刺激試験の10分の1ぐらいの量となり、全部がそのまま吸収されないことや代謝などを考えると、血中のアルギニン濃度はわずかな上昇に留まるのではないかと考えられます。従って、サプリメントの服用で成長ホルモンの分泌が促進するとは考えられません。たとえ血中濃度の上昇が観察されたとしても、本来の生理的変動である可能性が高いと考えられます。そのほか、アルギニン以外に宣伝されている物質に関しても、サプリメントとして投与した場合に成長ホルモンの分泌が促進されたという学問的なデータが、信頼できる学術雑誌に報告されたことはありません。

(中略)このように成長ホルモン分泌を促進する効果が明らかな薬でさえ成長を促進することができないことから、薬効が明らかでない「成長ホルモン分泌促進薬」が効くとは全く考えられません。


3.成長ホルモンを含むスプレー
 成長ホルモンを含むスプレーでは、鼻や口の中に噴霧すると成長ホルモンが体の中に吸収されると説明されています。しかし、成長ホルモンは分子量が約2万2000というやや大きな蛋白ですので、鼻や口の粘膜からはほとんど吸収されません。舌下に投与した場合には、多くが唾液と一緒に胃の中に流れて分解されてしまいます。成長ホルモンが効くためには、成長ホルモン治療で注射したときと同じくらいに血中濃度が上がることが必要です。スプレーでたとえ少し血液中に吸収されたとしても、成長ホルモンを注射したときと同じぐらいの血中濃度にするには、注射する量に比べてよほど大量の成長ホルモンを投与することが必要になるので、コストの面でも全く見合わないはずです。実際にスプレーの中の成長ホルモンの濃度は、注射の濃度よりも非常に低かったことがあります。

 


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