院長からのメッセージ

メタボリック症候群を予防しよう 2013年06月23日(日)

   わが国の成人男性の約半分、成人女性の約五分の一が、メタボリック症候群といわれています。メタボリック症候群とは、「内臓脂肪型肥満」に加え、「高脂血症」「高血圧」「高血糖」のうち二つ以上を持つ状態をいいます。肥満、高脂血症、高血圧、高血糖はそれぞれ動脈硬化の危険因子ですが、これらが単独で存在するよりも、それぞれが軽度であっても重複して存在する方が危険である事実にもとづき、新しく確立された疾患概念です。動脈硬化による病変は、狭心症、心筋梗塞などの心疾患(日本人の死因第二位)と脳出血、脳梗塞などの脳血管疾患(第三位)の原因になります。

 メタボリック症候群の増加の背景には、高脂肪・高カロリー食の氾濫、食品入手の容易さからくる栄養の過剰摂取、身体を動かさない生活習慣などがあげられます。さらに、ながら食いやまとめ食い、間食が多いなど、肥満を招きやすい食習慣も関係します。成人に対しては、平成20年に特定健診・特定保険指導が導入され、メタボリック症候群の予防に国をあげて取り組む体制が作られました。しかし、小児に対する取り組みは不十分なままです。「三つ子の魂百まで」の格言があるように、幼少期から良い生活習慣(食習慣と運動習慣を)を身に付けるための環境を整えることは、保護者・教育者・医師を含めた社会全体の責任といえます。

 乳児期における重要な点は、母乳栄養の推進です。長期に母乳栄養で育った子どもは将来、肥満になりにくく、糖尿病になりにくく、血圧が低いことが示されています。離乳期・幼児期は、健全な味覚と食習慣を身に付ける大切な時期です。脂肪の摂取過多を避けること(肉類・揚げ物を減らし、大豆・野菜・海草を加えてバランスよく食べる)、和食に馴染ませること(ごはんを主食に種々のおかずを組み合わせる)、規則正しいリズムを作ること(早寝・早起き・朝ごはんを習慣づける)など、子どもの将来を決める重要項目が盛りだくさんです。さらに、運動を活発に行う習慣も、この時期に身に付けたいものです。学童期に入ると、せっかく身に付いた良い習慣が乱れることがあります。この時期に見直したい項目は、@ 朝食を欠食していないか(生活習慣全体の良し悪しの目安になります)、A 給食をおかわりしていないか(朝食の欠食と関係します)、B 夕食と就寝の時刻は遅すぎないか(肥満との関連が示されています)、C よく噛んで食べているか、早食いしていないか(過食の原因として最も重要です)、D ながら食いをしていないか(テレビをつけっぱなしにせず、家族と談笑して楽しく食事をしましょう)、E 間食が過ぎていないか(スナック菓子・ファストフード・ジュース・スポーツ飲料などは、カロリーが高く栄養素が乏しいです)、F テレビ・ゲームに費やす時間は長くないか、G 運動、外遊び、ウォーキング、家事手伝いなどを積極的に行っているか。以上の八項目を常に意識して、良い生活習慣を維持したいものです。小児のメタボリック症候群に対するアプローチとして、最も重要なことは予防です。いったん確立してしまった悪い生活習慣を変更するのは容易なことではありません。

 小児期のメタボリック症候群の診断基準が設定されています。軽く息を吐いた時におへその高さで測る腹囲が、中学生で80cm以上、小学生で75cm以上の時は要注意です。あるいは、腹囲/身長比が0.5以上の時も要注意です。そのような場合は、医師に相談して、血圧測定や血液検査を受けることをお勧めいたします。
 

風疹の流行 〜 予防接種を済ませよう〜(第二報) 2013年06月19日(水)

  (第一報;2012年7月21日 掲載)(第二報;2013年6月19日 掲載)

 風疹の流行が続いています。昔は5〜6年周期で流行していましたが、幼児を対象とした風疹ワクチンが定着して以来、平成16年を最後に大規模な流行はありませんでした。ところが、平成23年に東南アジアで大規模な流行が発生して日本にウイルスが持ち込まれて以来、平成24年に近畿地方で流行規模が大きくなり、平成25年に首都圏で急増し、今や日本全土に拡大する勢いです。平成25年の全国の患者数は、6月9日の時点で早くも1万人を突破しています。うち、神奈川県は1220人、大和保健所管内は39人です。患者の約80%が男性で、20代〜40代の年齢層に多く見られます。本来子どもの病気であるはずの風疹が、なぜ成人男性を中心に流行しているのでしょうか。

 わが国で、風疹ワクチンは昭和51年まで接種が行われていませんでした。昭和52年に中学生女子を対象に集団接種が始まりましたが、男子を対象外としたため、流行を阻止することはできませんでした。平成7年に対象が1歳以降の男女に切り替えられた後、ようやく大規模な流行はなくなりましたが、局地的な小流行は今も時折みられています。以上の経緯が何を意味するかというと、35歳以上の男性はワクチン接種の機会が与えられず、風疹に対する免疫をほとんど持っていないということです。さらに、20代〜30代前半の男性もワクチンの接種率が低かったため、免疫はやはり不十分な状態です。したがって、風疹の流行の主体は20代以上の男性です。大きな問題は、その流行が妊娠・出産の機会が多い10代後半から40代までの女性に波及していることです。一方、麻疹・風疹(MR)ワクチンを2回接種している小児の間では、風疹はほとんど見られていません。

 風疹の症状は、年少児ではわりと軽く済みます。「三日はしか」の異名どおり、発熱と発疹が約3日間続いた後、自然に治ります。症状がないまま免疫ができる不顕性感染も約20%にあります。ただし、脳炎や血小板減少性紫斑病を数千人に一人の頻度で合併するので、やはり怖い病気です。年長児や成人が風疹にかかると、発熱や発疹の期間が長引いたり、高熱や関節痛を生じたりして、症状が重くなります。しかし、風疹が真に恐ろしいのは、免疫不十分な妊娠初期の女性がこれに罹った時です。お腹の中の胎児が風疹に感染すると、先天性心疾患、難聴、白内障を発症する可能性があります。これを先天性風疹症候群(CRS)といいます。CRSを発症する確率は妊娠12週までが最も高く、その幅は25〜90%と見積もられています。わが国のCRSの患者数は、平成16年の流行時に10人が報告されましたが、以後は平成18年の2人、平成21年の2人にとどまりました。ところが、平成24年10月から本日に至るまでの大流行で、11人の赤ちゃんがCRSに罹患しています。緊急事態です。
 
 風疹ワクチンの最大の目的は、先天性風疹症候群(CRS)の発生を防止することにあります。妊婦を風疹から守るために、定期接種の年齢に該当する子ども(1歳と就学前1年間の計二回)はもちろんのこと、妊婦の周辺にいる人たち(特にワクチン未接種の夫や同居家族)は、ワクチンを積極的に接種していただきたいです。接種を受けた人から、風疹ワクチンのウイルスが他人に広がる心配はまずありません。風疹ワクチンを接種することは、自分自身を風疹から守り、家族への感染を防ぎ、生まれてくる赤ちゃんをCRSから守ります。さらに、多くの人がワクチンを接種することで風疹自体の流行が無くなり、社会全体が守られることにもつながります。なお、妊婦は風疹ワクチンを接種できませんのでご注意ください。


<追記>
 大和市は2013年4月26日から9月30日までの間、風疹ワクチンまたはMRワクチンの接種費用の全額助成を行っています。対象は、大和市在住の19歳以上で、@ 妊娠を希望する女性、A 妊娠している女性の夫です。助成の対象には入っていませんが、夫以外の同居家族にも接種をお勧めします。妊娠中の女性は風疹ワクチンを受けることができません。

 風疹および先天性風疹症候群(CRS)を防ぐ唯一の手段は予防接種です。免疫のある人がワクチンを受けても副反応・過剰反応の問題はありませんので、ご自身が予防接種を受けたかどうか分からない場合、あるいは過去に風疹に罹ったかもしれないがはっきりしない場合、
ワクチンを受けても構いません。むしろ積極的に受けてください。風疹に罹ったと思い込んでいた人の約半数が、実は風疹でなかったという研究報告もあります。

 今回の流行では、夫から感染したと思われる妊婦の風疹とCRSの赤ちゃんが複数例、報告されています。わが子にハンディキャップを負わせないために、ワクチンの接種を考えていただきたいと思います
 


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