院長からのメッセージ

イオン飲料は身体によいか(2006年5月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   皆さんはイオン飲料にどのようなイメージをお持ちでしょうか。イオン飲料の宣伝文句には「血液と同じ成分」「身体にやさしく水分補給」などと書かれています。水を飲むよりもイオン飲料を飲む方が身体に良い、なんとなく健康的、と考える人も多いと思います。本当にその通りでしょうか!?

 イオン飲料は塩分と糖分を水に溶かしたものです。下痢や嘔吐で失われた体液を補うのに適しています。とくに、乳幼児用に調整された飲料(アクアライトなど)は、腸管から吸収されやすい工夫がなされています。胃腸炎がまだ軽い段階で用いると輸液(点滴)とほぼ同等の効果が得られるため、私も大いに推奨しています。しかし、下痢や嘔吐が治まり脱水の危機が去れば、イオン飲料の出番はそこで終わりです。健康なときにイオン飲料を水の代わりに与えてはいけません。

 イオン飲料を常用することによる弊害は三つあります。第一は塩分過多で、第二は糖分過多です。普通の食事をとっている乳幼児に、塩分や糖分をさらに補給する必然性はありません。余計な塩分は腎臓に負担をかけ、余計な糖分は肥満を助長します。さらに、塩分も糖分も味覚形成に大きな影響を及ぼします。乳幼児のときから「しょっぱい」「甘い」ものに慣れ親しんでいると、無味の水では物足りなくなりイオン飲料を絶えず求めるようになります。子どもの欲しがるままに与えていると、将来の生活習慣病(高血圧や肥満)にまっしぐらです。

 第三の弊害は虫歯です。イオン飲料のpHは3.6〜4.6と低値です。pH5.4以下では歯のエナメル質の脱灰が起こり虫歯になりやすいため、イオン飲料が口の中に残ると虫歯の原因になります。イオン飲料を与える必要がある場合は(下痢や嘔吐のとき)、寝る前や寝ながら与えないこと、やむをえず与えた時は綿棒や指先に巻いたガーゼで口の中を拭くことを心がけましょう。

 結論として、イオン飲料をとるのは塩分や水分が失われたときだけ(乳幼児では下痢・嘔吐で食事をとれないとき、学童では激しい運動で汗をかいた後)にとどめ、普段は水やお茶をとる習慣をつけることが大切と言えましょう。
 

肥満はなぜいけないか(2005年4月11日掲載) 2010年05月12日(水)

   「僕の家族はみんな太っているけど元気だよ。どうして太っていたら駄目なの?」 外来でときどき尋ねられる質問です。肥満とは標準体重からの偏りであって、それ自体は病気ではありません。しかし、肥満をそのまま放置しておくと、生活習慣病(いわゆる成人病)にかかる率が格段に高くなります。脂肪細胞から血液中に分泌される種々の生理活性物質(アディポサイトカイン)および遊離脂肪酸が、動脈硬化や血栓やインスリン分泌不全をもたらすことが発症の原因です。人生の早い時期から太っている人ほど身体の損傷が著しく蓄積し、より早い時期に生活習慣病を発症します。筆者の診療経験においても、10歳代で糖尿病、脂肪肝、高血圧、高脂血症を発症するケースを多々見かけます。将来の狭心症・心筋梗塞や脳卒中への進展が気がかりです。日本人小児の肥満の頻度は過去15年間に2倍近く増加し、今や10人に1人が肥満児の時代です。小児科医にとって肥満対策は緊急を要する課題の一つです。

 筆者が肥満児とその家庭に対して強調する点を四つあげます。(1) 肥満が軽いうちに治療を始める方が効果は早く出ます。治療期間も短くて済みます。(2) 肥満の原因はエネルギーの供給と消費のアンバランスです。今一度、家庭での食生活と運動習慣を見直してください。どこかに問題があるはずです。(3) 肥満は悪循環します。太ることで動きが鈍くなったり汗をかきやすくなり、ますます運動嫌いになります。精神的にも内向的、消極的になりがちです。悪循環を断ち切らなければ、肥満は悪化する一方です。(4) 肥満の治療には家族ぐるみの取り組みが不可欠です。子ども一人に頑張らせても、また家族内で方針が一致しなくても、減量の成果はあがりません。

 肥満に関するご相談を当クリニックで承ります。対象年齢は2~3歳以上です。過度のカロリー制限は伸び盛りの子どもには危険ですので、必ず医師の指示を仰いでください。また、1歳以下の肥満(ぽっちゃり体型)は以後の肥満には繋がらないため、治療の必要はありません。
 

血液型の疑問にお答えします(改訂版) 2010年04月26日(月)

  [1] 血液型とは何でしょうか? 
 人間の体内を流れる血液は、1) 全身に酸素を運ぶ赤血球、2) 病原体などの異物から身を守る白血球、3) 出血を止める血小板、4) 液体成分の血漿、からできています。私たちにとってなじみの深いABO式血液型は、赤血球の表面に突き出た糖鎖の違いによりA、B、O、ABの4型に分類する方式です。赤血球の血液型はABO式の他にも、Rh式、MN式、ルイス式、P式、ダフィー式など数通りの分類法があります。さらに血液型は赤血球だけに限らず、白血球、血小板、血清にもあります。
 輸血の際にとりわけ重要な血液型が、赤血球のABO式とRh式です。型が合わないと、輸血した赤血球が壊されて溶血する危険があります。また、臓器移植に重要な役割を演じるのは白血球の血液型(HLA)です。型が合わないと拒絶反応を起こします。血液型は、他人の血液や臓器を自分が受け入れられるかどうかの判定材料として用いられます。

[2] 子どもの血液型をいつ検査すればいいでしょうか?
 基本的には、急いで知る必要はないと思います。手術や血液疾患の治療で輸血が必要になった時に検査すれば十分です。輸血を行う際、病院の検査室は血液型を数分以内に素早く判定します。たとえ親が血液型を申告しても、あるいは名札に血液型が記されていても、やはり検査を行います。もしも誤った記憶や記録に基づいて異型輸血を行うと、溶血反応を生じて生命を危うくするからです。したがって、健康時にわざわざ痛みに耐えて血液型を調べる意義はあまりなく、血液型を知らないことを気に病む必要もありません。子どもが成長して献血を行う時などに血液型が判ればよいと考えます。保育園・幼稚園の健康記録帳に血液型の記入欄が設けられている場合がありますが、「堂々と空欄のまま提出すればよろしい」とお答えしています。
 ただし検査の意義について、一つだけ例外があります。身内に「Rh陰性」の稀少血液型の方がいる場合、子どもの血液型(ABO式はともかくRh陽性か陰性か)を知っておくことは、危機管理の上で必要といえましょう。また、非常に低い確率ですが、Rh陽性の両親からRh陰性の子どもが生まれることもあり得ます。ちなみに、日本人におけるRh陰性者の割合は約200人に1人(0.5%)です。Rh陰性者の輸血に関して、各都道府県の赤十字血液センターに登録されている献血ネットワーク「Rh陰性 友の会」を用いて、迅速に対処できる体制が整えられています。
 当クリニックは、血液型の検査を希望される方に以上の説明を行い、その上で最終決断をお願いしています。なお血液型の検査は、輸血などを前提としない場合、健康保険が適用されません。自費診療になりますことをご了承ください。

[3] 血液型が変わることはありますか?
 血液型が異なるドナーから骨髄移植を受けた場合を除き、血液型が自然に変わることは絶対にありません。もしも変わったとしたら、どちらか一方の検査結果が間違っています。
 血液型の検査法にはオモテ検査とウラ検査があります。通常は両方を行って総合判定しますが、生後4ヶ月未満の乳児ではウラ検査ができないためにオモテ検査だけで判定しています。その結果、検査の信頼度がやや落ちます。生後間もない赤ちゃんの血液型を調べない産科施設もありますが、万一の誤判定を避ける意味では妥当な方針といえましょう。血液型を調べるなら、オモテ・ウラの両方が確実に検査できる1歳以降の方が間違いありません。同様の理由で、耳たぶからの採血(オモテ検査しかできない)よりも、静脈から採血した検体(オモテとウラが検査できる)の方が信頼度の高い結果を得られます。

[4] 血液型で性格を判断できますか?
 血液型性格判断には科学的な根拠がまったくありません。それにもかかわらず信憑性を持たれる原因は、「当たったことは強く印象に残るが、外れたことはすぐに忘れる」心理であったり、「言われてみるとそういう気がしてきた」「○型だからそれに見合う行動をとらなればならない」という自己暗示にすり変わっていたり。いずれも社会心理学的な錯覚に基づく行動(= 自己成就的予言)として説明されます。ABO式と体質の関連性を否定する論文が、世界トップレベルの科学誌に掲載されています(Nature、2000年)。
 血液型性格判断を会話の道具として楽しむのは結構ですし、いちいち目くじらを立てる必要はないでしょう。しかし血液型による差別にまで発展すると、もはや看過できない問題です。たとえば、多数派であるA型やO型の性格は好ましいとされる反面、少数派であるAB型は悪い性格特性と結び付けられることがよくあります。A型とB型の相性など、組み合わせの適否もしばしば論じられます。これが恋愛やビジネスに利用されると、一部の血液型の人々に不利益が生じます。結婚にまつわる悲喜劇、新規採用や人事異動に血液型を導入する会社など、差別と弊害の実例は少なからずあります。さらに望ましくない利用法は、保育現場での選別です。血液型別に色分けした帽子を園児にかぶせて「特性に合った教育をしている」ことを誇る幼稚園が実在します。個性に富む子どもたちを「こうあるべき」と勝手に決めつけて誘導することは、将来の可能性を著しく狭める結果になります。また、このような選別は、血液型を検査したことのない園児を仲間外れにし、保護者に無用のプレッシャーを与えることになります。まったく愚かな方針としか言いようがありません。行き過ぎた血液型性格判断は、世の中にとっても子どもにとっても害毒です。あまり真剣にとらえずに、お遊びの範囲を逸脱しないように留意したいものです。
 ちなみに、血液型性格判断が広く流布している地域は、日本、韓国、台湾など東アジアだけです。欧米ではまったく受け入れられていません。彼らに自己紹介する時に血液型を言うと、「何でそんなことまで教えるんだ。おまえは今から輸血用の血液を募るのか!?」と奇異な目で見られます。ときには警戒されることもありますのでご注意ください。

(2007年8月1日 初版掲載)
 


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