院長からのメッセージ

母乳と薬 ~ 多くの薬は授乳中でも服用可能 ~ 2013年07月31日(水)

   授乳中のお母さんから、薬を飲んでよいかどうか尋ねられることがあります。授乳を中止せざるを得ないのは、一部の特別な薬だけです。多くの薬は安全に飲むことができます。ご質問いただければ、個々の薬について適切な情報をお伝えいたします。しかし現実には、病院や薬局で「薬が母乳中に出るので、服用している間は授乳を控えてください」と言われ、泣く泣く授乳をやめるケースがあります。また、授乳を続けるために薬を飲まずに我慢して、病状を悪化させてしまうケースもあります。どちらも情報を伝える機会があれば、と残念に思います。

 母乳には多くの利点があります。母乳は栄養素のバランスがよく、消化と吸収にすぐれています。母乳には、病原体から身を守る免疫抗体が含まれています。母乳を与えることで、母子のスキンシップが図られ、情緒の安定が得られます。人工乳が良くないわけではありませんが、母乳にかなわない点がたくさんあります。不必要に母乳を中断して人工乳に変えることは、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても望ましくないことですね。

 お母さんが服用する薬の1%未満は、母乳中に移行します。しかし、赤ちゃんに有害な作用をもたらす薬は、@ 抗がん薬、免疫抑制薬、放射性医薬品、A 一部の抗生物質、向精神薬、ホルモン薬、などに限られています。@は「禁忌」、Aは「要注意」の扱いです。一般に使用される薬、たとえばかぜ薬や多くの抗生物質は、赤ちゃんに移行しても悪い影響をまず及ぼしません。ただし、薬を服用している間、赤ちゃんの様子をよく見ておくことは大切です。むずかりやすい、便がゆるい、よく眠る、などの変化がごく稀に見られることがありますが、その時点で薬を中断すれば消失します。のちのちに問題を残すものではなく、ご心配は無用です。薬を飲む時の工夫の一つとして、授乳のすぐ後に服用すると次の授乳までにある程度が代謝されて、母乳に出る量が少なくなります。

 たとえば、お母さんがかぜをひいた場合を考えてみましょう。かぜのウイルスは母乳中に移行しません。かぜのウイルスと闘う免疫抗体は母乳中に移行します。解熱薬やかぜ薬は母乳中にわずかに移行しますが、ほとんどの薬は赤ちゃんに害をもたらしません。したがって、お母さんがかぜをひいた時でも、母乳はむしろ赤ちゃんを守るために有用ですし、薬を飲みながら授乳を続けることも可能です。赤ちゃんをかぜから守るためには、授乳を続けること以外に、赤ちゃんに触れる前に石鹸を使ってよく手洗いをすること、マスクを着けて赤ちゃんに咳やくしゃみをかけないことを心がけてください。

 わが国の医薬品添付文書(薬の説明書)は、「服用中は授乳しないように」という記述だらけです。これに従うと、ほとんどの薬は、授乳を中止しなければなりません。しかしこの説明書は科学的な根拠に乏しく、今の時代にそぐわなくなっています。厚生労働省もこの点を認めているようです。より信頼できる参考文献として、「母乳とくすりハンドブック」(大分県/母乳と薬剤研究会 編)(http://www.oitaog.jp/syoko/binyutokusuri.pdf)、「母乳とくすり」(水野克己 著、南山堂)などがあげられます。当院は、これらに基づいた情報提供を行っています。授乳中のお母さんの悩みを解決する一助になれば、と期待しています。
 

メタボリック症候群を予防しよう 2013年06月23日(日)

   わが国の成人男性の約半分、成人女性の約五分の一が、メタボリック症候群といわれています。メタボリック症候群とは、「内臓脂肪型肥満」に加え、「高脂血症」「高血圧」「高血糖」のうち二つ以上を持つ状態をいいます。肥満、高脂血症、高血圧、高血糖はそれぞれ動脈硬化の危険因子ですが、これらが単独で存在するよりも、それぞれが軽度であっても重複して存在する方が危険である事実にもとづき、新しく確立された疾患概念です。動脈硬化による病変は、狭心症、心筋梗塞などの心疾患(日本人の死因第二位)と脳出血、脳梗塞などの脳血管疾患(第三位)の原因になります。

 メタボリック症候群の増加の背景には、高脂肪・高カロリー食の氾濫、食品入手の容易さからくる栄養の過剰摂取、身体を動かさない生活習慣などがあげられます。さらに、ながら食いやまとめ食い、間食が多いなど、肥満を招きやすい食習慣も関係します。成人に対しては、平成20年に特定健診・特定保険指導が導入され、メタボリック症候群の予防に国をあげて取り組む体制が作られました。しかし、小児に対する取り組みは不十分なままです。「三つ子の魂百まで」の格言があるように、幼少期から良い生活習慣(食習慣と運動習慣を)を身に付けるための環境を整えることは、保護者・教育者・医師を含めた社会全体の責任といえます。

 乳児期における重要な点は、母乳栄養の推進です。長期に母乳栄養で育った子どもは将来、肥満になりにくく、糖尿病になりにくく、血圧が低いことが示されています。離乳期・幼児期は、健全な味覚と食習慣を身に付ける大切な時期です。脂肪の摂取過多を避けること(肉類・揚げ物を減らし、大豆・野菜・海草を加えてバランスよく食べる)、和食に馴染ませること(ごはんを主食に種々のおかずを組み合わせる)、規則正しいリズムを作ること(早寝・早起き・朝ごはんを習慣づける)など、子どもの将来を決める重要項目が盛りだくさんです。さらに、運動を活発に行う習慣も、この時期に身に付けたいものです。学童期に入ると、せっかく身に付いた良い習慣が乱れることがあります。この時期に見直したい項目は、@ 朝食を欠食していないか(生活習慣全体の良し悪しの目安になります)、A 給食をおかわりしていないか(朝食の欠食と関係します)、B 夕食と就寝の時刻は遅すぎないか(肥満との関連が示されています)、C よく噛んで食べているか、早食いしていないか(過食の原因として最も重要です)、D ながら食いをしていないか(テレビをつけっぱなしにせず、家族と談笑して楽しく食事をしましょう)、E 間食が過ぎていないか(スナック菓子・ファストフード・ジュース・スポーツ飲料などは、カロリーが高く栄養素が乏しいです)、F テレビ・ゲームに費やす時間は長くないか、G 運動、外遊び、ウォーキング、家事手伝いなどを積極的に行っているか。以上の八項目を常に意識して、良い生活習慣を維持したいものです。小児のメタボリック症候群に対するアプローチとして、最も重要なことは予防です。いったん確立してしまった悪い生活習慣を変更するのは容易なことではありません。

 小児期のメタボリック症候群の診断基準が設定されています。軽く息を吐いた時におへその高さで測る腹囲が、中学生で80cm以上、小学生で75cm以上の時は要注意です。あるいは、腹囲/身長比が0.5以上の時も要注意です。そのような場合は、医師に相談して、血圧測定や血液検査を受けることをお勧めいたします。
 

風疹の流行 〜 予防接種を済ませよう〜(第二報) 2013年06月19日(水)

  (第一報;2012年7月21日 掲載)(第二報;2013年6月19日 掲載)

 風疹の流行が続いています。昔は5〜6年周期で流行していましたが、幼児を対象とした風疹ワクチンが定着して以来、平成16年を最後に大規模な流行はありませんでした。ところが、平成23年に東南アジアで大規模な流行が発生して日本にウイルスが持ち込まれて以来、平成24年に近畿地方で流行規模が大きくなり、平成25年に首都圏で急増し、今や日本全土に拡大する勢いです。平成25年の全国の患者数は、6月9日の時点で早くも1万人を突破しています。うち、神奈川県は1220人、大和保健所管内は39人です。患者の約80%が男性で、20代〜40代の年齢層に多く見られます。本来子どもの病気であるはずの風疹が、なぜ成人男性を中心に流行しているのでしょうか。

 わが国で、風疹ワクチンは昭和51年まで接種が行われていませんでした。昭和52年に中学生女子を対象に集団接種が始まりましたが、男子を対象外としたため、流行を阻止することはできませんでした。平成7年に対象が1歳以降の男女に切り替えられた後、ようやく大規模な流行はなくなりましたが、局地的な小流行は今も時折みられています。以上の経緯が何を意味するかというと、35歳以上の男性はワクチン接種の機会が与えられず、風疹に対する免疫をほとんど持っていないということです。さらに、20代〜30代前半の男性もワクチンの接種率が低かったため、免疫はやはり不十分な状態です。したがって、風疹の流行の主体は20代以上の男性です。大きな問題は、その流行が妊娠・出産の機会が多い10代後半から40代までの女性に波及していることです。一方、麻疹・風疹(MR)ワクチンを2回接種している小児の間では、風疹はほとんど見られていません。

 風疹の症状は、年少児ではわりと軽く済みます。「三日はしか」の異名どおり、発熱と発疹が約3日間続いた後、自然に治ります。症状がないまま免疫ができる不顕性感染も約20%にあります。ただし、脳炎や血小板減少性紫斑病を数千人に一人の頻度で合併するので、やはり怖い病気です。年長児や成人が風疹にかかると、発熱や発疹の期間が長引いたり、高熱や関節痛を生じたりして、症状が重くなります。しかし、風疹が真に恐ろしいのは、免疫不十分な妊娠初期の女性がこれに罹った時です。お腹の中の胎児が風疹に感染すると、先天性心疾患、難聴、白内障を発症する可能性があります。これを先天性風疹症候群(CRS)といいます。CRSを発症する確率は妊娠12週までが最も高く、その幅は25〜90%と見積もられています。わが国のCRSの患者数は、平成16年の流行時に10人が報告されましたが、以後は平成18年の2人、平成21年の2人にとどまりました。ところが、平成24年10月から本日に至るまでの大流行で、11人の赤ちゃんがCRSに罹患しています。緊急事態です。
 
 風疹ワクチンの最大の目的は、先天性風疹症候群(CRS)の発生を防止することにあります。妊婦を風疹から守るために、定期接種の年齢に該当する子ども(1歳と就学前1年間の計二回)はもちろんのこと、妊婦の周辺にいる人たち(特にワクチン未接種の夫や同居家族)は、ワクチンを積極的に接種していただきたいです。接種を受けた人から、風疹ワクチンのウイルスが他人に広がる心配はまずありません。風疹ワクチンを接種することは、自分自身を風疹から守り、家族への感染を防ぎ、生まれてくる赤ちゃんをCRSから守ります。さらに、多くの人がワクチンを接種することで風疹自体の流行が無くなり、社会全体が守られることにもつながります。なお、妊婦は風疹ワクチンを接種できませんのでご注意ください。


<追記>
 大和市は2013年4月26日から9月30日までの間、風疹ワクチンまたはMRワクチンの接種費用の全額助成を行っています。対象は、大和市在住の19歳以上で、@ 妊娠を希望する女性、A 妊娠している女性の夫です。助成の対象には入っていませんが、夫以外の同居家族にも接種をお勧めします。妊娠中の女性は風疹ワクチンを受けることができません。

 風疹および先天性風疹症候群(CRS)を防ぐ唯一の手段は予防接種です。免疫のある人がワクチンを受けても副反応・過剰反応の問題はありませんので、ご自身が予防接種を受けたかどうか分からない場合、あるいは過去に風疹に罹ったかもしれないがはっきりしない場合、
ワクチンを受けても構いません。むしろ積極的に受けてください。風疹に罹ったと思い込んでいた人の約半数が、実は風疹でなかったという研究報告もあります。

 今回の流行では、夫から感染したと思われる妊婦の風疹とCRSの赤ちゃんが複数例、報告されています。わが子にハンディキャップを負わせないために、ワクチンの接種を考えていただきたいと思います
 

声援と達成感とビールを求めて走る、走る 2013年04月21日(日)

                  <今回は医学情報ではなくエッセイ(駄文)です>

 本日、かすみがうらマラソンに出場して、生まれて初めて42.195kmを走りました。未知の世界への冒険旅行でした。記録は4時間28分44秒。サブフォー(4時間未満)を狙ってスタートから飛ばしたのですが、30kmの先に大きな壁が立ちはだかっていて、そこからは脚が思うように動かなくなってしまいました。最後は気力だけで前に進みました。フルマラソンの厳しさ、難しさを痛感しました。でも今は、完走できたことに深い満足を感じています。

 ランニングを始めたきっかけは、友人が語る東京マラソンの魅力でした。それまでマラソンなど遠い世界の出来事でしたが、熱っぽい話しぶりを聞くうちに、じゃあ自分もやってみようと無謀にも思い立ったのです。54歳での挑戦でした。練習を始めた当初は2〜3kmを走っただけで息が上がるし、足腰のどこかが常に痛いし、おそらく長続きしないだろうと予想していました。頑張ってみたり挫けたりを何度も繰り返す最中、「完走の後はコシヒカリを食べ放題」の宣伝に惹かれ、南魚沼グルメマラソンに参加してみることにしました。ランニングを始めて半年後のことです。いずれどこかで挫折するにしても、一度は大会に出て脚光を浴びたかったし、自分の走力を試してみたかったのです。申し込んだのは八分の一(5.274km)の部。現在の感覚では “たったの” 5キロ少々ですが、当時は不安と恐怖を抱かせるのに十分な距離でした。六月中旬の開催だったので、熱中症で倒れることも心配でした。制限時間の50分以内に完走できれば上出来、途中で棄権してもオーケー、と弱気なまま走り出しましたが、沿道から「まだまだ行ける!」「もっと笑って! リラックス!」などの声援に後押しされ、自分でも驚きの28分14秒で走破しました。本番のレースではアドレナリンが全開になるせいか、普段の練習以上の力が発揮されますね。ゴールラインを踏み越えた時の喜びは最高でしたし、参加賞の茶碗に盛ってもらったコシヒカリの美味しさは格別でした。茶碗は今も大切にとっています。

 八分の一マラソンでこれだけ感動するなら、フルマラソンを走り終えた時の感動は八倍かそれ以上に違いないと考え、その感動を求めて、以前よりも真剣に練習に取り組むようになりました。いきなりフルマラソンに挑むのは無茶なので、徐々に距離を延ばして足腰を鍛えようと、まず10kmマラソンに三つ、次いでハーフマラソンに三つ出場しました。そこそこの記録を出して自信を深めたところで、一年半にわたる練習の集大成として、先述のフルマラソン(かすみがうらマラソン)に出場した次第です。自分をここまでマラソンに駆り立てる原動力は何かと考えると、三つの要因が頭に浮かびます。一つめは、沿道から寄せられる声援です。皆さんが自分を応援してくれていると思い込んで、ヒーロー気分で走っています。二つめは、ゴールした瞬間の達成感です。走っている最中、苦しさに負けて歩きたくなった時は、「己に勝つ!」と呟いて自分を鼓舞します。頑張って走りきったあとは清々しい気分になります。三つめは、レース後に待っているビールとご馳走です。とくに自己ベストを更新した後の一杯は最高の美味しさです。つい、暴飲暴食してしまいます。今ここで過去に出場した大会の一つ一つを振り返ってみますと、走った距離に関係なく(幾分かは比例しますが)、胸躍る記憶の数々が蘇り、マラソンを始めてよかったなあと感慨に浸ります。

 マラソンは今や人生の友になりました。心身の健康にも役立っています。次の目標は、フォームの改造です。力任せに地面を蹴り上げる我流フォームでは、大幅な記録更新を望めないし、足腰の故障が絶えません。スピードアップを果たした後に実現したい夢は … アマチュア・ランナーの一流の証とされるサブフォーを今度こそ達成すること、それと、子どもたちが大喜びしそうな仮装で走ってやんやの喝采を浴びること … かな。
 

身長を伸ばすサプリメントは存在しない 2013年04月09日(火)

   「身長を伸ばす効果がある」と謳うサプリメントが新聞や雑誌やインターネットで宣伝されています。しかし、医学的に有効性が証明されたサプリメントは一つとして存在しません。皆様が誇大広告に惑わされることがないように、日本小児内分泌学会は以下の声明文を発表しました。ご参考になれば幸いです。

 生まれつき小さく成長曲線から大きく外れている、ある時点から急に身長が伸びなくなった、という場合、ホルモンなどの病気が考えられますのでご相談ください。小柄であっても成長曲線に沿って伸びている場合、病気の可能性はほとんどありません。バランスのよい食事をとり、健康的な生活を送っていれば、サプリメントをわざわざ摂取する必要はありません。

<以下、日本小児内分泌学会の声明文から>
1.カルシウム、鉄、ビタミンDを含んだサプリメント
 これらの栄養要素の不足により、もし成長が阻害されている場合には、栄養要素を補充することにより成長が正常化する可能性はあります。たとえば主に乳幼児期に発症するビタミンD欠乏性くる病では、成長障害がおこり、ビタミンDの補充により成長は正常に回復します。しかしこれらの栄養要素の不足がない場合には、これらの栄養機能食品を投与しても成長促進するという科学的なデータはありません。また多量に摂れば健康を損なう恐れがある一方で、成長が促進するという客観的なデータがありません。特にカルシウム製剤は、成長を促進すると思われていますが、骨を強くする作用はありますが、成長促進作用はありません。


2.成長ホルモンの分泌を促進するといわれている物質を含むサプリメント
 これらの物質のうちで代表的なものは「アルギニン」です。アルギニンはたしかに成長ホルモン分泌刺激試験の薬として用いられています。しかし、分泌刺激試験で用いる場合は、体重1kgあたり 0.5gという量を30分間で直接血管内に点滴で投与します。たとえば体重30kgの子どもであれば15gを投与するわけです。一方、現在サプリメントとして販売されているアルギニン製剤は、多くの場合に200mg〜2gの錠剤で、内服薬です。その全部が吸収されて血中に移行したとしても分泌刺激試験の10分の1ぐらいの量となり、全部がそのまま吸収されないことや代謝などを考えると、血中のアルギニン濃度はわずかな上昇に留まるのではないかと考えられます。従って、サプリメントの服用で成長ホルモンの分泌が促進するとは考えられません。たとえ血中濃度の上昇が観察されたとしても、本来の生理的変動である可能性が高いと考えられます。そのほか、アルギニン以外に宣伝されている物質に関しても、サプリメントとして投与した場合に成長ホルモンの分泌が促進されたという学問的なデータが、信頼できる学術雑誌に報告されたことはありません。

(中略)このように成長ホルモン分泌を促進する効果が明らかな薬でさえ成長を促進することができないことから、薬効が明らかでない「成長ホルモン分泌促進薬」が効くとは全く考えられません。


3.成長ホルモンを含むスプレー
 成長ホルモンを含むスプレーでは、鼻や口の中に噴霧すると成長ホルモンが体の中に吸収されると説明されています。しかし、成長ホルモンは分子量が約2万2000というやや大きな蛋白ですので、鼻や口の粘膜からはほとんど吸収されません。舌下に投与した場合には、多くが唾液と一緒に胃の中に流れて分解されてしまいます。成長ホルモンが効くためには、成長ホルモン治療で注射したときと同じくらいに血中濃度が上がることが必要です。スプレーでたとえ少し血液中に吸収されたとしても、成長ホルモンを注射したときと同じぐらいの血中濃度にするには、注射する量に比べてよほど大量の成長ホルモンを投与することが必要になるので、コストの面でも全く見合わないはずです。実際にスプレーの中の成長ホルモンの濃度は、注射の濃度よりも非常に低かったことがあります。

 

PM2.5の正体に迫る 2013年03月14日(木)

   中国で発生した微小粒子状物質(PM2.5)が日本に飛来し、環境汚染を引き起こしています。PM2.5とは、大気中に浮遊する直径2.5μm以下の小さな粒子のことです。その成分として、元素状炭素(黒いスス)、有機炭素、窒素化合物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、アンモニア、重金属など様々な物質が含まれています。その起源は、工場の排煙やディーゼル車の排気ガスなどの人工産物のほかに、土壌の粉塵や火山活動などの自然現象もあります。また、家庭内では喫煙やストーブなどから発生します。PM2.5は粒子のサイズが非常に小さいため(髪の毛の30分の1、スギ花粉の15分の1)、肺の奥深くまで入りやすく、喘息や気管支炎などの呼吸器疾患を引き起こす可能性があります。さらに、肺がんや循環器疾患の誘因にもなります。

 わが国では大気汚染防止法に基づき、全国500ヶ所以上でPM2.5の常時監視体制が敷かれています。大和市内にも2ヶ所の測定局が設置されています。測定結果(1日平均値)は翌日に公開されます(神奈川県ホームページ http://www.k-erc.pref.kanagawa.jp/taiki/pm25.html または電話 045-210-5980)。大気中のPM2.5濃度が70 μg/m3を超えると健康への影響が現れる可能性が高くなります。朝のPM2.5濃度をもとに、その日の平均値が70 μg/m3を超えるおそれがあると判断されると、防災無線やPSメールで注意が換気されます。注意喚起の内容は「不要不急の外出をできるだけ減らす、屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす、屋内で換気や窓の開閉を必要最小限にする、呼吸器系や循環器系の疾患のある人(病弱者)・子ども・高齢者は体調に応じてより慎重に行動する」となっています。なお、病弱者・子ども・高齢者はPM2.5への感受性が高いので、環境基準値とされる35 μg/m3を超えたら注意が必要です。ちなみに、大和市内における今年(3月14日まで)の観測値は3.1〜33.7 μg/m3(平均値 13.4、中央値 11.7)にとどまり、一日も環境基準を超えていません。大気中のPM2.5に関して、今のところ問題はないようです。これに比べて、中国の北京市で観測される100〜600 μg/m3という数値はきわめて異常です。病弱者・子ども・高齢者に健康被害が激増することが懸念されています。

 大気中のPM2.5はとりあえず大丈夫ですが、身近なところにPM2.5濃度が非常に高い場所が存在します。喫煙可能な室内です。タバコを吸う家族がいると、住居内のPM2.5濃度は大きく上昇します。大阪市の調査によりますと、喫煙者がいない家庭では20 μg/m3であるのに対し、喫煙者がいる家庭では50 μg/m3前後に達します。自由に喫煙できる居酒屋では568 μg/m3という驚くべき数値も出ています(北京市と同レベルです)。喫煙者の健康被害はともかく、タバコを吸わない家族(特に子ども)までがPM2.5の危険にさらされることは大きな問題です。さらに良くない点は、大気中のPM2.5よりもタバコの煙の方が、有害性が高いことです。タバコの煙の中には、約70種類の発がん性物質が含まれています。空気清浄機を使っても、タバコのPM2.5を取り除くことはできません。また、屋外でタバコを吸っても、呼気に含まれたり衣服に付着したりして室内に持ち込まれます。室内外を完全禁煙にしないかぎり、PM2.5から身を守ることはできません。わが国におけるPM2.5対策の最大の焦点は、一日の大半を過ごす屋内での受動喫煙をいかに無くすかにあると思います。
 

漢方医学の子どもへの応用 2012年12月24日(月)

   漢方医学と聞いて、皆さんは何をお考えになるでしょうか。「何となく効きそうだ」という肯定派から、「科学的な裏づけはあるの?」という懐疑派まで、さまざまなイメージがあると推察します。漢方薬は、小児科領域で使用される頻度はまだ高くありませんが、有効性と安全性に関する評価はほぼ固まっています。西洋医学でこれといった切り札がない病気に対して、漢方医学はとても重宝します。西洋医学のアプローチを主軸にしつつ、カバーできない部分を漢方医学で補完する、というのが当院の基本方針です。

 漢方薬は、複数の生薬(植物の根・茎・果実、鉱物、小動物などを加工したもの)を治療目的に組み合わせたものです。約二千年にわたる膨大な経験の集積により、現在の漢方薬の数々が作り出されてきました。人類の知的財産といえましょう。漢方薬は、西洋医学的な視点からも解明が進められており、その薬理作用のいくつかはすでに検証済みです。

 漢方薬は大きく分けて6種類の効力を有します。(1) 感染に対する免疫調節作用、(2) 鎮咳作用、(3) 消化機能改善作用、(4) 水分代謝調節作用、(5) 情緒安定作用、(6) 成長補助作用です。個々の薬によって作用は大きく異なりますが、生薬の複合体という本来の性質から、単独の臓器だけでなく身体全体に調和的に作用することが、漢方薬に共通する特長です。

 西洋医学で対処しきれない病状に対して、漢方医学というツール(道具)を持っていることは、小児科医にとって非常に便利です。たとえば、中耳炎をよく繰り返す、のどの痛みが取れない、水いぼができやすい、お尻のおできが治りにくい、お腹がすぐに痛くなる、食欲が出ない、疲れやすい、元気がない、乗物酔いをしやすい、吐きやすい、夜泣きが激しい、チックが治らない、癇癪(かんしゃく)を起こしやすい、不安が強い、等々の訴えには漢方医学が適しています。これらの病状では、西洋医学に代わって漢方医学が主役にさえなります。

 漢方薬の難点は、味と香りが子どもに馴染みにくいことでしょうか。いくつかの薬は比較的飲みやすいですが(甘麦大棗湯、小建中湯、葛根湯、薏苡仁など)、多くの薬は内服にひと工夫を要します。乳児では、湯で練ってペースト状にして上顎に指で塗りつける方法が適しています。幼児は言い聞かせが難しい時期ですので、いろいろな工夫が考えられています。たとえば、熱い湯に溶いて冷ましてから飲む、熱い湯に溶いて砂糖やハチミツを入れてから飲む(ハチミツは1歳以上)、ココア・クリーム・ヨーグルト・アイス・リンゴジュースなどに混ぜて飲む、薬を練り込んだクッキーやホットケーキを作る、等々です。漢方薬は一部を除いて加熱しても失活しませんので、工夫の幅は広いです。

 医食同源とか薬膳という言葉があるように、漢方薬は古来、食品の一部として病気の予防や治療に使われてきました。小児科医にとっても利用価値の高い薬であり、今後いっそう積極的に活用したいと考えています。
 

インフルエンザワクチンの必要性 2012年11月11日(日)

   当院はインフルエンザワクチンの接種を積極的に行っています。ワクチンに関するご質問をしばしばお受けしますので、今回のコラムではワクチンの必要性についてお話しいたします。

1 ワクチン接種の直接効果
 インフルエンザの予防の基本は、ワクチンを接種することです。今季はA香港型の変異ウイルスの流行が予想されるため、例年以上にワクチン接種が大切になります。
 日本では過去に学童の集団接種が行われていましたが、効果が期待できないとして1994年に中止されました。しかしながら、東京都内の一小学校を24年間にわたり調査した結果から、ワクチンの接種率が低下した年は、欠席率と学級閉鎖日数がともに上昇することが明らかにされました。つまり学童の集団接種は学校内のインフルエンザ流行の防止に役立っているといえます。

2 ワクチン接種による間接効果
 学童集団接種が行われていた1970〜80年代と、中止した後の90年代後半以降を比べると、90年代後半以降に (1) 学級閉鎖が3倍に増えた、(2) 高齢者の超過死亡(インフルエンザ関連死亡)が急増した、(3) 乳幼児のインフルエンザ脳症が急増した、の三点が顕著になりました。(1) は先に述べたワクチンの直接効果ですが、(2) と (3) は間接効果として説明できます。
 学童にワクチンを接種すると → 学童がインフルエンザにかからず、インフルエンザを家庭に持ち込まない → 同居している祖父母や弟・妹がインフルエンザにかからない、という流れができます。これを間接効果といいます。健康な成人と小児がワクチンを接種することは、同居する家族全員、とくにインフルエンザに対して最も抵抗力の弱い高・低年齢層の人たちを守ることにつながります。

3 ワクチン接種による脳症の予防
 ワクチンを接種してインフルエンザにかからなければ、インフルエンザ脳症にもなりません。たとえば、ワクチンの有効率を70%と仮定します。脳症で死亡した小児が年間50人いるとして、その全員が流行前にワクチンを接種していたら、35人はインフルエンザにかからず、当然、脳症に至ることもありませんでした。したがって、ワクチンは脳症の予防に有効です。残りの15人はインフルエンザにかかりますが、脳症に至るのか、普通のインフルエンザで済むのか、症例数が少ないために結論はまだ出ていません。なお、脳症を発症するのは、インフルエンザ患者1万人あたり数人で、毎年100〜500人がかかります。致死率は7%前後、重い後遺症をのこす確率は25%前後です。

4 ワクチンの効果の限界
 ワクチン株と流行株が一致した場合、健康成人で70〜90%の発病阻止効果があります。小学生以上の学童でも、成人とほぼ同等の効果が期待できます。しかし6歳以下の低年齢になるとワクチンの有効率は低下し、A型で50%台、B型で20%台に過ぎません。インフルエンザワクチンの効果に限界がある理由は、(1) インフルエンザウイルスが頻繁に自分の構造を変化(変異)させること、(2) インフルエンザに対する免疫をほとんど持たない低年齢児において、現行の不活化ワクチンは弱すぎること、などです。(2) については、昨季から小児への接種量が増えたので、有効率の若干の改善は期待できますが…。諸外国では、鼻に噴霧する生ワクチンや新製法の不活化ワクチンなど、強いワクチンの研究と開発が進んでいますが、ワクチン後進国の日本では実現はまだ遠い先の話のようです。
 以上のように十分に満足できるワクチンではありませんが、インフルエンザにかかる危険を考えると、接種しておく方がやはり安心でしょう。とくにインフルエンザ脳症や重症肺炎は、進行があまりにも早いため、抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザなど)による防止が間に合いません。ワクチンが唯一、有効な対処法です。

5 卵アレルギーとインフルエンザワクチン
 インフルエンザワクチンには、ごく微量の鶏卵由来成分が含まれています。しかし卵アレルギーを持つ人すべてが接種できないわけではありません。過去にアナフィラキシーショックを起こした重度の人は不可です。軽微な症状を呈するだけの人は、医師と相談の上で適否をお決めください。
 

RSウイルス感染症 ~ 乳幼児にとって厄介な病気 ~ 2012年10月19日(金)

   RSウイルス(RSV)の時季外れの流行が話題になっています。例年、RSVの流行は10〜11月に始まり、翌年3〜4月に終息します。しかし今年は真夏に流行が始まりました。当院でも、8月から感染者が増加しています。インフルエンザほどには名が知られていませんが、実はインフルエンザよりも厄介なRSVについて、詳しく解説いたします。

 インフルエンザがあまり流行しない年はあっても、RSVが流行しない年は無いといわれるほど、RSVは毎年必ず流行します。乳児(1歳未満児)の三分の二は、初めての冬に感染します。母体からの免疫ではRSVを防ぐことができず、生まれたばかりの赤ちゃんも感染します。初めての冬に感染しなかった残りの三分の一も、次の冬には感染します。したがって、ほぼ100%の子どもが、2歳までに一度はRSVにかかることになります。しかも終生免疫が成立しないため、繰り返し何度も感染します。ただし、再感染のたびに症状は軽くなる傾向にあります。

 RSVに感染すると、発熱、鼻水、咳、喘鳴などの呼吸器症状が現れます。年長児は上気道炎(普通のかぜ)で済むことがほとんどですが、年齢が小さいほど下気道炎(気管支炎、肺炎など)に進展する危険性が増します。初めての感染時に下気道炎に至る頻度は約30%です。とくに、生後6ヶ月未満の乳児や心肺に基礎疾患を持つ乳幼児は重症化しやすく、ゼーゼーと苦しそうな息づかいや激しい咳き込みが始まったら要注意です。息をするたびに鼻の穴が広がったり胸が強くへこんだりする、ミルクをほとんど飲めない、ときどき息を止める、顔色が悪くぐったりしている、など呼吸不全の徴候が現れたら早急に医療機関に受診してください。重症化する頻度は1〜3%で、毎年約2万人が入院治療を受けています。また、重いRSV感染症にかかった子どもの15〜40%は、気道過敏性(かぜを引くとゼーゼーしやすい性質)が数年間続きます。喘息との異同は明らかにされていませんが、長期にわたる経過観察が必要です。

 RSVの侵入経路は目と鼻と口です。感染した人の鼻水や唾液からうつるので、かぜをひいている人(特に年長のきょうだい)は赤ちゃんにできるだけ近づかないこと、やむをえず近づいたり触れたりする場合はマスクを着用し手洗いすることが大切です。手洗いは石けんと流水で十分ですが、アルコール消毒を加えるとなお良いです。家族内で徹底して行ってください。また、器物の扱いに注意が必要です。感染者の鼻水が器物に付着し(RSVは数時間生存します)、それを触れることでRSVが手に移り、その手で目や鼻をこすると感染が成立します。

 RSVに対して、残念ながら、ワクチンも特効薬も存在しません。気道分泌物(鼻水、喀痰)を取り除いたり、去痰薬を内服したり、適切な体位や環境設定を行うなど、対症療法(症状を緩和する治療)が基本になります。当院は、適正な小児医学にもとづく治療に積極的に取り組んでいます。多くの子どもたちは外来通院を1〜2週間続けていただくことで治癒しますが、病状によっては病院に紹介し入院治療を考慮する場合もありますことをご理解ください。

 RSVに対するワクチンはありませんが、シナジスという予防薬はあります。月1回の筋肉注射です。重症化を防ぎ入院率を下げることが証明されています。ただし、早期産児、心肺に基礎疾患を持つ乳幼児など、投与対象が限られています。残念ながら、すべての乳幼児に用いることができる薬ではありません。
 

かぜでお休みする期間(第三版) 2012年09月19日(水)

   子どもたちの間で夏かぜが流行しています。かぜを起こす病原体の80〜90%はウイルス、10〜20%は細菌です。この目に見えない微生物は、咳やくしゃみの飛沫を介して体内に侵入すると、鼻やのどの中で急速に増殖します。病原体が最も活発に増殖する温度は、病原体の種類によって違いますが、おおむね33〜34℃(一部は37℃)です。ヒトの身体は病原体の侵入を感知すると、設定体温を上げる(熱を出す)ことで病原体の増殖を抑えようとします。また、咳や鼻水を出すことで病原体を体外に追い出そうとします。かぜに伴うさまざまな症状は、身体を守るための防御反応という側面があります。さらに(これが最も大切ですが)、ヒトの身体は白血球を中心とした「免疫」を介して病原体を排除する仕組みを持っています。

 「かぜが治る」ということは、体内に侵入した病原体がおおむね消えて、かぜの症状がやわらぎ、身体が元通りの元気さを取り戻すことです。同時に、他人にかぜの病原体をうつす心配がなくなることでもあります。ではどのような状態になったら、隔離を解除して再登園・登校できるでしょうか。(1) 一般のかぜについては、「熱が下がって1日たち、咳や鼻水がそれほど強くない」状態なら出席可です。(2) 下痢については、水のような便が出ている間は休むべきで、「軟らかくても形のある便に変わったら」出席可です。(3) 学校保健法の指定伝染病(麻疹、風疹、おたふくかぜ、水ぼうそう、インフルエンザ、百日咳、結核、プール熱など)については、それぞれ厳密な取り決めがあります。登園・登校には医師の治癒証明書が必要です。(4) その他の感染症ついても、一応の取り決めが存在します。たとえば、手足口病とヘルパンギーナは「熱がなく、食欲など状態がよければ」出席可、リンゴ病は「熱がなく、食欲など状態がよければ、発疹が出ていても」出席可、水いぼは「出席停止の必要なし」、とびひは「出席停止の必要なし、ただし露出している病巣をガーゼ等で覆う配慮を」、溶連菌は「抗菌薬を1〜2日内服して、熱が下がったら」出席可です。これらの病気に対して、治癒証明書は原則として不要です。ただし保育園や幼稚園によっては提出を求める所があります。

 水いぼ(伝染性軟属腫)は誤解の多い病気です。プールに入ることを禁止されるだけでなく、水いぼを取るように”指示”される子どもがいます。どちらも誤りです。水いぼウイルスは、露出した肌が強く触れ合ってうつることがあります。浮き輪、ビート板、タオルを介してうつることもあります。しかし、プールの水を介してうつることはありません。肌の接触や備品の共用に注意すれば、一緒に楽しくプール遊びをすることは可能です。学校保健法(平成11年改訂)にも、「プールを禁止する必要はない」と記されています。もしもプールを禁止するのであれば、半袖半ズボンでふざけ合うのも禁止しなければなりませんね。また、水いぼは、入念なスキンケアを心がけていれば、6〜24ヶ月で自然に治る病気です。水いぼを急いで取ってしまうか、あるいは自然に治るのを待つか、その判断は子どもと保護者に委ねられるべきでしょう。

 プール熱は名前のとおり、プールの水を介してうつる場合があります。病原体であるアデノウイルスは塩素系消毒薬に弱いのですが、塩素濃度が十分でないプールでは生き延びてヒトからヒトにうつります。アデノウイルスは鼻水や便の中に2週間ほど出ますので、プール熱にかかった子は、再登園した後も1週間はプールに入らないようにしましょう。なお、アデノウイルスがうつる場所はプールだけではありません。感染者の唾液や鼻水など、飛沫を介してうつる場合の方が多いです。プール熱の再登園・登校の基準は、主な症状が消えて2日たってからです。

 手足口病の再登園・登校の基準はいささか曖昧です。手足口病の病原体はエンテロウイルスです。この病原体は、発疹が現れる2日前から感染力を持ちます。また、発熱や発疹が消えた後も2〜4週間にわたり便に排出されて感染力を保持します。したがって、発疹が消えるまで登園・登校を停止しても、感染の拡大を防ぐことはできません。といって、ウイルスが便中に出なくなる4週後まで隔離することは現実に無理ですので、熱がなくいつもの食事が食べられるようなら、発疹が完全には消え去っていなくても、再登園・登校を許可しています。ただし、排便後またはおむつ交換後の手洗いは十分に行なってもらいます。ヘルパンギーナの病原体もエンテロウイルスであり、これも同様の措置をとっています。

 また、夏かぜの話題から外れますが、子どものよくみられる感染症の登校・登園の目安も記しておきましょう。@ インフルエンザの登校・登園基準は、学校では「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日」、幼稚園・保育所では「発症後5日を経過し、かつ解熱後3日」と定められています。以前は「解熱後2日」だけでしたが、2012年4月に法令が改められて今の形になりました。抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ、イナビルなど)で熱が下がっても、すぐには登校・登園できませんのでご注意ください。A 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の登校・登園基準は、「耳下腺の腫れが消えたら」から「耳下腺が腫れてから5日を経過し、かつ全身状態が良好になったら」に改められました。わずかな腫れが残っていても(回復期に顎下腺にしこりを触れることはよくあります)、5日を経過し元気であれば登校・登園できることになりました。B 百日咳の登校・登園基準は、「特有の咳が消えたら」か「5日間の抗菌薬による治療が終了したら」のいずれかを満たせば可、という形に改められました。C マイコプラズマ肺炎は、「激しい咳が止まれば」登校・登園可です。D ノロ・ロタ・アデノなど各ウイルスによる感染性胃腸炎は、「嘔吐・下痢が治まり、いつもの食事が食べられたら」登校・登園可です。E RSウイルス感染症は、「呼吸器症状(咳、鼻水など)が治まったら」登校・登園可です。F 突発性発疹は、「解熱したら」登園可です。G 帯状疱疹は水痘(みずぼうそう)と同様で、「すべての水疱が痂皮化したら(かさぶたを作ったら)」登校・登園可です。

 初版 2010年7月6日 第二版 2012年4月1日 第三版 2012年9月19日
 


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