院長からのメッセージ

おたふくかぜが難聴を起こす(2006年8月1日 掲載) 2010年06月30日(水)

  「ムンプス難聴」という病気をご存知でしょうか。ムンプス(mumps)とはおたふくかぜのこと。おたふくかぜが髄膜炎や睾丸炎を起こすことはよく知られていますが、難聴については “稀な合併症” という認識しかこれまで持たれていませんでした。しかし最近になって、ムンプス難聴の合併率が予想されていた以上に高く、しかも一旦起こるとまず治らないことが判明し、その対策が重視され始めています。今回のコラムではムンプス難聴を解説し、予防接種の重要性をあらためて強調したいと思います。

ムンプス難聴の特徴は、@ おたふくかぜの発症4日前から発症18日後の間に起こる、A 片側の耳がほとんど聞こえなくなる、B 有効な治療法がなく自然治癒も難しい、の三点です。従来、おたふくかぜにかかった1.5〜2万人に1人の頻度とされていましたが、最近の日本における疫学調査により、その10倍以上高率に起こるであろうことが明らかにされました(400〜1000人に1人)。後天性難聴の原因として第一位です。これまで少なく見積もられていた理由は、1) 片耳だけなので気付きにくい(健診で初めて見つかるケースも多々あります)、2) おたふくかぜが不顕性感染(耳下腺が腫れずにすむ)に終わると難聴との関連が分かりにくい、3) 小児科と耳鼻科にまたがるため双方の関連に気付かれない、などがあげられます。子どもを持つ保護者と医療関係者がムンプス難聴を正しく理解することが、この病気を克服する第一歩と言えましょう。

ムンプス難聴を避ける手段は予防接種です。欧米の先進諸国はMMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)ワクチンの2回接種を徹底することで、おたふくかぜの撲滅にすでに成功しています。当然、ムンプス難聴も発生しません。しかし、日本ではワクチン接種率が30%台と低いために、年間100〜200万人の子どもがおたふくかぜにかかっています。ムンプス難聴は年間に300〜650人が報告されています(実数はもっと多いと見込まれます)。

日本は予防接種に関して、世界に取り残された後進国です。おたふくかぜのワクチンも任意接種(国の責任で行わない、有料)の扱いです。ワクチンの欠点は効能が必ずしも万全でないことで、接種してもおたふくかぜにかかる子どもがいます。しかし、合併症としての無菌性髄膜炎や難聴は、ワクチン接種後にかかったおたふくかぜではきわめて稀です。軽症化という意味で、ワクチンを接種する意義は十二分にあります。

保護者の方々には、@ おたふくかぜに「自然にかかればよい」という認識を捨てる、A 真に怖い合併症は髄膜炎や睾丸炎よりも難聴である、B ワクチンは完璧とは言えないまでも唯一の防衛手段である、の三点をお伝えいたします。当クリニックは、おたふくかぜの流行を阻止することに微力ながらも貢献したいと考えています。

 なお、わが国ではおたふくかぜワクチンの接種率が30%台と低く、年中どこかでおたふくかぜが流行しています。そのため、ワクチンを接種したにもかかわらず、おたふくかぜにかかることが少なくありません。免疫を早期につけ確実に長持ちさせるために、ワクチンを1歳時と就学前の2回、MRワクチンと同時に接種することをお勧めいたします。 <2012年6月26日、2回接種の必要性について追記しました>


追記 (2010年6月30日)
 「おたふくかぜのワクチンって効くんですか」という質問を受けることがよくあります。有効率は70〜90%です。もしもワクチン接種後におたふくかぜにかかっても、多くの場合、症状は軽くて済みますし、各種の合併症にもかかりにくくなります。合併症の頻度を下にまとめました。ワクチンの有用性がお分かりいただけると思います。

無菌性髄膜炎;3〜10%(自然感染)、0.01〜0.05%(ワクチン後感染)
脳炎;0.02〜0.03%(自然感染)、0.0004%(ワクチン後感染)
難聴;0.1〜0.25%(自然感染)、0.00002%(ワクチン後感染)
睾丸炎;25%(思春期年齢)(自然感染)、ほとんど無し(ワクチン後感染)
卵巣炎;5%(自然感染)、ほとんど無し(ワクチン後感染)
膵炎;4%(自然感染)、ほとんど無し(ワクチン後感染)
 

ホームページ「コラム」欄の修復のお知らせ 2010年05月13日(木)

   3月下旬にホームページの「お知らせ」と「コラム」が作動しなくなり、皆様にご迷惑とご心配をおかけいたしました。本日、過去に掲載された全コラムの修復作業を終えました。ただし、掲載の順序は変わっています。
 今後とも玉井クリニックの「コラム」のご愛読をよろしくお願い申し上げます。
 

ジェネリック医薬品(2010年4月26日 掲載) 2010年05月13日(木)

   ジェネリック医薬品という言葉をご存知ですか。ジェネリック医薬品とは、特許の切れた薬を他のメーカーが真似て作ったものです。新薬の開発に伴う費用が要らないため、価格を先発品よりも2〜8割安く設定できます。国(厚生労働省)は医療費削減のためにジェネリック医薬品の使用を強く推奨し、テレビ・コマーシャルは「同じ薬が半額以下」「使わなきゃ損」と盛んに宣伝しています。まるで「ジェネリック医薬品を積極的に使わない医療機関は遅れている」と言わんばかりです。しかし本当に良い事ずくめなのでしょうか。

 薬は、有効成分、添加物(賦形剤、保存剤など)、剤形(錠剤、散剤など)の三要素からなります。ジェネリック医薬品で、先発品と同じ要素は有効成分だけです。添加物と剤形は同じとは限りません。その結果、先発品には含まれていない添加物が副作用や過敏症を招く可能性がゼロではありません。あるいは、剤形(コーティングの種類など)の違いにより、有効成分が体内で解け出す速度や分解される速度に変化をきたし、同じ薬のはずなのに効き過ぎたり効きにくかったりすることが起こり得ます。ジェネリック医薬品がオリジナルの先発品と必ずしも同一ではないことをお分かりいただけると思います。

 ジェネリック医薬品の承認申請に際して、「有効性の試験」は課せられますが、「安全性の試験」は存在しません。添加物や剤形の違いで思わぬ薬理作用が起こるかもしれないというのに、その審査が省略されているのです。副作用情報がほとんど無いというのは、使う側にとって大変に不安なことです。社会的信用度の高いメーカーならともかく、技術力が未知のメーカーの薬となると、どうしても使用に二の足を踏んでしまいます。

 ジェネリック医薬品ばかりが普及するようになると、新薬を開発する意欲をメーカーが失う恐れがあります。新薬の開発には通常、100〜150億円の資金と10〜15年の時間が必要とされています。もしも日本のあらゆるメーカーが新薬の開発を放棄して手軽なジェネリック薬の製造に走ったら、日本の技術力と国際競争力はあっという間に転落してしまうでしょう。科学技術立国の危機です。ジェネリック”先進国”のドイツで、今まさにそのような由々しき事態が生じています。世の中には、新たな治療薬やワクチンを必要とする病気がまだ数多く残されています。国は目先の医療費削減だけに心を奪われず、新薬の開発力を育成して国民の健康を守るという長期的な発想を持ってもらいたいものです。

 ジェネリック医薬品に対して厳しい見方を示しましたが、利点にも目を向ける必要はあります。ジェネリック医薬品の魅力は、何と言っても価格の安さです。特に長期間にわたり薬を必要とする方々にとって、価格の引き下げは朗報でしょう。また、ジェネリック医薬品の中には、十分な使用実績があり、品質評価と安全性の確立された薬がいくつもあります。服用しやすさ(小型化、味の改良)や安定性など、付加価値の点で先発品より優れた薬もあります。当クリニックでは、ジェネリック医薬品だから良いとか悪いとか画一的に扱うのではなく、個々の薬について品質と安全性をよく吟味した上で採否を決めたいと考えています。
 

保育園・幼稚園に入ったら(2007年4月2日掲載) 2010年05月12日(水)

   4月は新年度の始まりです。保育園・幼稚園に通い始める子どもたちは、生活環境の激変に直面することになります。集団生活は、友達を作る、ルールを覚える、知識と体験を増す、などの点でとても有意義です。しかし一方で、感染症にかかりやすい不利益もあります。免疫能が未発達である乳幼児にとって、病原体に遭遇する機会の多い集団生活は、成長過程における大きな関門でもあります。たとえば中耳炎や肺炎による入院は、冬季のピークのほかに5月にも小さなピークがあります。これは4月に入園した子どもが風邪を反復し、その経過中に中耳炎や肺炎を併発するためです。また、胃腸炎やインフルエンザを一、二人の子どもが発症すると、その集団内で急速に広がることはご存知の通りです。そのため、ワクチンで予防できる病気(ヒブ、小児用肺炎球菌、四種混合、麻疹・風疹、B型肝炎、水ぼうそう、おたふくかぜ、インフルエンザなど)は、入園前に接種をすべて済ませておくことが望ましいです。しかしワクチンで免疫を作ることができる病気はごく限られており、ワクチンの存在しない風邪ウイルス(200〜300種類あるといわれています)に対しては、自分の力で免疫を作っていくしかありません。保育園・幼稚園に通い始めると、月に一、二回は風邪を引きます。発熱、鼻水、咳、嘔吐、下痢など風邪の症状は多くのウイルスに共通で、どのウイルスによる風邪かを区別することはできません。何度も同じような風邪を引いているようにみえても、実際は異なるウイルスによる風邪を次々に引いていると考えられます。そして、それぞれのウイルスに対する免疫を獲得して、しだいに風邪を引かなくなります。

 風邪を完璧に予防することは不可能ですが、減らすことはできます。集団生活における感染防御対策は、保育施設ならびに子どもを通わせる保護者の方々にとって、是非とも知っていただきたい知識です。
@ 排泄物の処理・手洗い・消毒:胃腸炎の大部分は、便や吐物に排出された病原体(ノロウイルス、ロタウイルス、大腸菌など)が人の手に付着し他者の口に入ることで、広く伝播されます。日頃からオムツを処理した手をよく洗い流すことを心がけましょう。もしも園内で胃腸炎が発生した場合、1) その子が使った流しやトイレの消毒、2) 吐物で汚染された床・寝具・衣服・玩具などの消毒は、感染の拡大を防ぐ上で非常に重要です。
A 食品の衛生管理:日頃からの留意点として、1) 食品を扱う前に手を洗う、2) オムツを処理する場所と食品を扱う場所を厳密に分ける、3) 下痢や嘔吐などの消化器症状や化膿創を有する人は食品の扱いを極力避ける、などが大切です。食品の汚染は集団感染の引き金になることがしばしばあります。
B 出席停止と再登園の基準の明確化:風邪をはじめとする呼吸器疾患の多くは、咳やくしゃみの飛沫に含まれる病原体を介して広がります。また、胃腸炎については先述のとおりです。したがって、風邪や胃腸炎の症状が著しいときは登園を控えましょう。無理をすると、自身だけでなく他者の健康も害する危険があります。中でも伝染性の高い病気(裏面を参照)については、学校保健法により出席停止期間が定められています。「皆勤賞を取りたいから」「行事に出たいから」「親の都合がつかないから」という理由で、病気でありながら登園させることは法に触れる行為です。わが子を他人への感染源にしないように。
C 予防接種歴の再確認:予防接種の漏れがないかどうか、入園に際して母子手帳を見直しておきましょう。おたふくかぜと水ほうそうは任意接種の扱いですが、当クリニックは「できるだけ接種しよう」と呼びかけています。インフルエンザについても同様です。
 
 入園直後に数週間おきに風邪をひいていた子どもたちも、年を経るごとに次第に抵抗力を増し、小学校に入学する頃にはそうそう簡単に風邪をひかなくなります。乳幼児期に数々の病原体に遭遇しこれを克服することは、一種の通過儀礼と言えなくもありません。どの程度の病状で保育施設を休ませるかは難しい問題ですが、あえて線引きをするなら、1) 軽い咳や洟垂れ、または軟便があっても、熱がなく食欲も元気も平常どおりなら登園可、2) それ以上の病状であれば欠席して自宅で静養するか医療機関を受診する、となるでしょうか。「どの段階でクリニックに連れて行けばいいか分からない」と親御さんからしばしば質問を受けますが、「いつもと違うな」「心配だな」と感じられる時(個々の子どもによって様々でしょう)が受診のタイミングです。どのような状況でもお気軽にご相談ください。最も大切なことは、日頃から感染予防対策を徹底するとともに、子どもたちの健康状態を把握して病気による変化を見逃さない姿勢であると思います。

 (2013年4月3日、一部加筆修正)
 

小児救急 <夜間休日のかかりかた>(2009年1月8日掲載) 2010年05月12日(水)

   クリニックが休みの時に、子どもが急に熱を出したり吐いたりしたら・・・「すぐに救急外来に連れて行くべきか」それとも「明日まで待っても大丈夫か」の判断に迷った経験をお持ちの方は少なくないでしょう。今回のコラムでは、小児救急の仕組みと救急への受診の目安をお伝えいたします。

 最初に小児救急の仕組みから。小児救急体制は、病気の重症度によって一次から三次までに分けられます。外来で治療可能な軽症例は一次、入院治療が必要な中等症例は二次、集中治療を要する重症例は三次です。救急車を要請すべき重症例(三次)を除き、一次も二次もまず一次医療機関をご利用ください。大和市では大和市地域医療センター(046-263-6800)、座間・綾瀬・海老名市では座間・綾瀬・海老名小児救急医療センター(046-255-9933)が受け皿を務めています。市域を越えた利用も可能です。二次医療が必要と医師が判断した場合、医療センターから病院に紹介いたします。ただし、大和市は22時45分に、座間・綾瀬・海老名市は21時45分に医療センターを閉めますので、以後の時間帯の急患(一次・二次)の方は二次輪番病院をご利用いただきます。日ごろから公報などで当番(曜日によって異なります)の病院名と所在地をご確認ください。当番病院の情報はテレホンサービスでも提供しています。大和市は046-264-0119、座間・綾瀬・海老名市は046-231-4402です。「かながわ小児救急ダイヤル」では、小児の急病への対処法の相談に応じています。時間は毎日18時から22時まで、電話番号は#8000(携帯電話、市外局番が042以外のプッシュ回線)または045-722-8000(ダイヤル回線、IP電話、市外局番が042の回線)です。

 一次の医療センターの当番は開業医の有志が交代で務めています。二次・三次病院の日当直は勤務医が務めています。看護師、薬剤師、事務員も同様です。人員の配置や検査・投薬の体制が日中に比べて手薄であることは否めませんが、「地域医療を守る」という使命感のもとに、参加者が献身的に支えている事情をご理解ください。したがって、幼稚園や学校を休ませたくない、日中は自分の都合がつかない、夜間・休日はあまり待たされない、などの理由で気軽に利用することはお控えください。小児救急は、急な病気や怪我をした時、病状が急に悪化した時に対処するための施設です。皆様のご協力をお願い申し上げます。

 次に救急への受診の目安を。子どもの救急で最も多いのは発熱です。発熱は体内に入りこんだ病原体の増殖を抑える防御反応ですから、全身の状態が悪くなければ心配いりません。顔色が赤く、機嫌がよく笑顔が見られて、お気に入りの玩具で遊べて、食事をそこそこに食べられて、すやすや眠っているようなら、翌日まで待っても大丈夫でしょう。ただし時間とともに具合が悪くなったら、たとえば顔色が青白く、機嫌が非常に悪く、水分を飲もうとせず、ぐったりして動こうとしない時、または激しい頭痛や嘔吐を伴っている時は、救急外来を早急に受診してください。顔色がさらに真っ青で、呼吸が弱々しく、とろとろ眠ってばかりで呼びかけに応じない時、または痙攣(ひきつけ)が5分以上続く時は、救急車を呼んでください。また、生後3ヶ月未満の赤ちゃんが38℃以上発熱した場合は、重い病気の可能性がありますので、救急外来を受診してください。

 発熱に次いで多いのは嘔吐です。嘔吐の原因の多くは胃腸炎(お腹のかぜ)です。胃の中に入りこんだ病原体を吐き出す防御反応ですから、1〜2回吐いた後にすっきりして顔色が悪くなければ、翌日まで待っても大丈夫でしょう。何度も吐き続け、顔色が青白く、機嫌が非常に悪く、水分を飲もうとせず、ぐったりして動こうとしない時、吐物に血液や緑色の液体が混じっている時、激しい腹痛を伴っている時などは、救急外来を早急に受診してください。意識がおかしい時、痙攣(ひきつけ)を起こした時は、救急車を呼んでください。

 咳もしばしば見かける症状です。咳はのどや気管支にたまった痰や異物を押し出し、呼吸機能を正常に保つための防御反応です。元気(活動度)・機嫌・食欲・睡眠に問題がなければ、翌日まで様子をみても構いません。しかし、咳込みや喘鳴(ゼーゼーヒューヒュー)で横になれない、眠れない、肩で息をしている、咳込んで何度も吐くなどの時は、救急外来を受診してください。呼吸がうまくできない、泣くことも話すこともできない、顔色が真っ青でぐったりしている時は、救急車を呼んでください。

 ほかにも、下痢、腹痛、発疹、痙攣(ひきつけ)、誤飲など、子どもの病状はたくさんあります。「兵庫県立柏原病院の小児科を守る会」のホームページ http://mamorusyounika.com には、子どもの急病に対する保護者の行動計画が詳細に記されています。パソコンをお持ちの方はご参照ください。また大和市小児科医会では、いざという時に慌てずに対処するための「子どもの救急ガイドブック」の作成を計画しています。皆様のご心配を解消する一助になるように頑張ります。完成までに少々のお時間をいただきますがどうぞご期待ください。

 追記;2009年12月に完成しました。力作です! 約3万部が印刷され、各家庭や幼稚園、学校に配布されました。詳しくは、大和市役所の健康づくり推進課にお問い合わせください。

 追記(2013年3月17日);2013年4月1日から、二次輪番病院の担当が若干変わります。木曜日は従来の南大和病院に代わり、大和市立病院が当番を務めます。これまで繰り返されてきた小児救急の受け入れ拒否が、これをもって改善されることを期待しています。引き続き皆様には、救急医療の適正なご利用をお願い申し上げます。
 

解熱薬の使い方(2005年12月1日 掲載、2012年9月8日 一部改訂) 2010年05月12日(水)

   熱を出してフーフー言っている子どもを見るのはつらいことです。発熱に対してどのように向き合えばよいか、解熱薬をどのタイミングで使えばよいかを考えてみましょう。

 最初に、病気の重症度をチェックします。意識がおかしい、呼吸が苦しそう、顔色が真っ青、出血傾向がある、ぐったりして呼びかけに応じない、半日以上尿が出ない、生後3ヶ月以下 ⋯。これらの場合、とりあえず様子を見るのではなく、早急に医療機関に受診してください。

 重症でないと判断できたら(大部分の発熱が該当します)、状況に応じて解熱薬を与えて構いません。解熱薬は頓用が基本で、定時の服用はしません。小児で最もよく用いられるのはアセトアミノフェン(アンヒバ、アルピニー、カロナール、コカール、パラセタなど)です。投与後3〜4時間で最大効果が得られ、8〜12時間にわたって有効です。坐剤と経口薬(シロップ、細粒、錠剤)の比較では、経口薬のほうが若干早く効きます。間隔を6時間以上あけて、1日2回を限度として、適切に与えてください。他に小児で用いられるのは、イブプロフェン(ユニプロン、ブルフェンなど)だけです。

 上記2種以外の解熱薬は原則として小児に使用しません。アスピリンはライ症候群との関連があるため、特にインフルエンザと水痘(みずぼうそう)には使用禁です。メフェナム酸(ポンタール)とジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)はインフルエンザ脳症との関連が指摘されていて、使用が厳禁されています。他の解熱薬も過度の低体温や肝障害を起こす危険があります。成人の解熱薬を小児に流用することはやめてください。

 そもそも発熱は病原体の繁殖を抑える生体防御反応であり、解熱薬の使用は病気の回復を遅らせる、という意見があります。筆者は、高熱でつらそうなときは解熱薬で一時的に楽にしてあげて、その間に水分を補給したり安眠させて体力の消耗を防ぐのは良いこと、と考えています。高熱の定義は38.5〜39℃以上です。これ以上の熱があっても辛そうにしていなければ(食欲、遊び、睡眠が保たれているなら)、無理に熱を下げる必要はありません。高熱のままでも大丈夫です。なお、解熱薬で熱を下げても病気が治ったわけではなく、あくまでも一時しのぎであることを忘れないでください。

 寒そうに震えて手足の先が冷たく青いのは、これから熱が上がる兆候です。毛布などでほんの少し暖めるといいでしょう。熱が上がりきると今度は赤い顔をして暑そうにしますので、毛布や布団の枚数を減らしてあげましょう。衣服の着せすぎはよくありません。頭や腋窩(わき)や脚の付け根を冷やすと気分がよくなります。ただし、子どもが嫌がるようなら無理に行う必要はありません。浣腸すると熱が下がるという民間療法は広く流布していますが、熱が下がるよりも熱に伴う頭痛を軽くすることに若干の効果があるようです。

 「高熱が続くと頭が悪くなる」という言い伝えがあります。たしかに41℃を超えると脳障害を生じる可能性がありますが、人間の体温は限りなく上がらないように脳で調整されています。通常の病気ではそのようなことは起こりません。ただし、高熱の原因が脳に存在する病気(髄膜炎、脳炎、痙攣重積など)と体温調節機能そのものが損なわれる病気(熱中症、熱射病)では注意が必要です。最初に述べた「重症度が高いことを示す徴候」があれば、早めに医療機関に受診してください。

 インフルエンザの流行期をひかえて、このコラムが親御さんの参考になればさいわいです。子どもの発熱を上手に切り抜けましょう。
 

禁煙のすすめ(2006年7月3日掲載) 2010年05月12日(水)

   狭い部屋でタバコを5本吸うと、周囲の人も1本吸わされる計算になります。この「受動喫煙」に関する医学的データが集まるにつれて、子どもへの健康被害が予想されていた以上に深刻なことが分かってきました。何も知らずに強制的にタバコを吸わされる子どもに代わり、子どもの健康を守るために声を上げるのが小児科医の役割です。喫煙者の方々にとっては耳の痛い話ですが、余計なお節介!と言わずに最後までご一読ください。

 タバコの煙には一酸化炭素、ニコチン、シアン化水素、タールをはじめ、4000種類以上の化学物質が含まれています。そのうちの200種類以上が人体に有害で、約60種類に発がん性があります。最も毒性の強い煙は点火部分から漂う副流煙で、フィルター側から吸われる主流煙の5〜50倍量の有害物質が出てきます。副流煙と喫煙者の吐き出す煙(吐煙)を自分の意思に関係なく吸わされるのが受動喫煙です。

 子どもにとって生まれて初めて出会う被害は乳幼児突然死症候群(SIDS)です。わが国では毎年400〜500人の子どもが犠牲になっています。親の喫煙、うつぶせ寝、人工栄養がSIDSの危険因子で、とりわけ喫煙の影響は強大です。SIDSのリスクは、妊婦の喫煙で7.01倍、妊婦の受動喫煙で3.41倍、出生後の子どもの受動喫煙で2.44〜10.43倍(喫煙者数が多いほど数値が高くなる)に増加します。両親の喫煙をなくせばSIDSの60%は防ぐことができます。つまり240〜300人の子どもは故なく死なずに済むわけです。

 次に受ける被害は呼吸器疾患です。タバコの煙には気道粘膜を傷つける成分が含まれているため、受動喫煙を続けている子どもは喘息・気管支炎・肺炎・中耳炎・副鼻腔炎にかかることが多く、かかった後は長期化・重症化しやすくなります。たとえば、喘息の発症率は親の喫煙によって2〜5倍増加し、中耳炎の発症率は1.5〜2倍増加します。いったん発症した喘息は、3〜4倍治りにくくなります。欧米では、長引く咳や反復する中耳炎にかかった子どもを診療する際、両親の喫煙状況を尋ねることが常識になっています。喫煙者の方々には、喫煙が子どもの通院や入院する機会を倍増していること、禁煙すればこれが半減することを知っていただきたいと思います。

 成長や発達への悪影響もあります。受動喫煙にさらされる子どもは、身長の伸びが0.2〜1.6cm低く、知能指数が4〜6ポイント低いとする報告があります。将来、問題行動や情緒障害を起こす率も高くなります。小児がん(白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍など)の発生リスクが14%増えるという報告があります。1〜2歳の子どもにしばしば見られる誤飲事故の原因はタバコが常に第1位です。以上、どのデータを取っても、親の喫煙によって子どもがいかに辛い思いをしているかをご理解いただけると思います。

 子どもの受動喫煙を防ぐ唯一の方法は、家庭内での喫煙を完全にやめることです。子どものいない部屋で吸う、台所の換気扇の下で吸う、あるいはベランダに出て吸う、などの気づかいは素晴らしいことですが、残念ながらどれも受動喫煙を防ぐことはできません。これらの対策を講じても、子どもの尿から通常の2〜10倍量のニコチンが検出されます。タバコの煙や微粒子が、空気中に長く漂っていたり、遠くまで拡散したり、喫煙者の衣服や頭髪についていたり、吐く息に含まれているためです。タバコ1本でドラム缶500本分の空気が汚染されることから、少々の防煙対策では足りないことをご想像いただけると思います。高価な空気清浄機に至っては、単に悪臭を少し弱めるだけに過ぎず、タバコの有害成分の除去にはまったく効いていません。

 禁煙を推奨する理由は、子どもの受動喫煙防止のほかにも二つあります。その一つは親自身の健康の問題です。喫煙する男性の2割近くが35歳から60歳までに肺がんや心筋梗塞などの喫煙関連疾患で死亡します。しかも、喫煙を始めた年齢が低いほど若年死する傾向があります。「タバコ遺児」という造語があるくらいで、親は子どもの養育責任を果たすまでは元気でいなければなりません。二つめは、親が喫煙者であると子どもも喫煙者になりやすいことです。子どもにとってタバコへの心理的な抵抗が少ないこと、親のタバコをちょいと失敬して最初の1本を吸ってしまう機会があること、などが原因です。子どもは大人に比べて短期間でニコチン依存症になりやすく、大人で5〜10年かかるところが子どもでは数週間〜数ヶ月でタバコをやめられなくなります。喫煙という最悪のライフスタイルを次世代に継承させないためには、自らがタバコと縁を切るのが最善の策です。

 喫煙を簡単にやめられないのは意志が弱いからではなく、脳神経がニコチン依存症という状態に冒されているためです。タバコを無理なくやめるには、ニコチンパッチの使用をお勧めします。ニコチンパッチを身体に貼ると、一定濃度のニコチンが体内に入って禁断症状を和らげます。徐々に低濃度のニコチンで満足するようになり、やがてタバコを完全にやめることができます。一部の医療機関では禁煙支援の保険診療を行っています(当クリニックは未登録です)。さらに大切なことは禁煙を支える人たちの存在です。家族の皆、とくに子どもは親御さんが禁煙することを心から喜んでくれるでしょう。禁煙マラソンという、禁煙を頑張って続けている仲間どうしの支え合いの場もあります。パソコンか携帯電話でホームページ http://kinen-marathon.jp/ にアクセスしてみてください。禁煙は家族に捧げる大きな愛情です。この機会にタバコをやめることを真剣に考えてみませんか。

追記(2010年12月6日)
さる11月27日、世界保健機構(WHO)は、受動喫煙による死亡者が世界全体で毎年60万人に達することを発表しました。そのうちの16万5千人を5歳未満の子どもが占めています。喫煙が原因で死亡する人は年間510万人であり、受動喫煙と合わせると毎年570万人がタバコのために命を落としていることになります。

追記(2012年3月18日)
タバコを “発がん性” で放射線量に換算すると、1日1箱の喫煙者は年間6400 mSv(ミリシーベルト)の被爆、受動喫煙者は年間100 mSvの被爆と同等です。
 

経口補水療法は「飲む点滴」(2008年10月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   急性胃腸炎は、消化管に病原体が侵入することで、吐いたり下痢をする病気です。消化管が未熟な乳幼児では、激しい下痢や嘔吐が続いた末に、体内から水分と塩分が失われて脱水に陥ることがよくあります。脱水をいかに防ぐかが、急性胃腸炎の治療のポイントです。ノロウイルスやロタウイルスが流行する時期に先がけて、脱水の防止法を学びましょう。

 嘔吐や下痢のときに、白湯(さゆ)やお茶を与える家庭が多いと思います。多くの場合はそれでも問題なく治りますが、脱水が進行する場合は、ナトリウムなど塩分(電解質)の補充が欠かせません。電解質の入った飲み物といえばスポーツドリンクですが、これはナトリウム濃度が低く糖分が多すぎる欠点があり、脱水の治療に向いていません。医学的に適切な経口補水液は、OS-1(オーエスワン)、アクアライトORS、アクアソリタです。薬局などで入手できますので、いざという時のために家庭に備えておくと便利でしょう。

 子どもが嘔吐を起こしたら、2〜4時間の休憩後に経口補水液を飲ませてみましょう。慌てずゆっくり少量ずつ与えることが大切です。嘔吐しているときでも、スポイトやスプーンやストローを用いて、ひと口5mlずつ5分おきに根気よく与えてください。しだいに調子が出てくれば、ひと口あたりの量を増やしましょう。経口補水液の至適量は「子どもが欲しがるだけ、いくらでも」です。おおよその目安は、1回の嘔吐または排便ごとに「体重あたり5〜10ml(10kgの子どもで50〜100ml)」です。しかし同じ飲み物だけでは飽きますので、嘔吐が止まり食欲が出てきたら、母乳や粉乳あるいは普段から食べ慣れたものを再開しましょう。下痢が続いても、食事を与えて構いません。長期間の絶食は、消化管の回復をかえって遅らせます。ただし、脂っこいものや味の濃いもの(ジュース、ケーキなど)は、回復するまでの間控えてください。

 経口補水療法は、1970年代に発展途上国で有効性と安全性が確認され、先進国に逆輸入された治療法です。最大の利点は、点滴などの特別な器具を必要としないこと。したがって、子どもは痛い思いをしなくて済みますし、家庭でも行うことができます。経口補水療法が日本であまり普及していない理由は、国民の間に根強く存在する「点滴信仰」のためか、あるいは医師の横着のためか(点滴の方が、細かい説明を省けるし、“何となく” 高級な治療法に見えるし…)。理由はともあれ、経口補水療法はもっと試みられていい治療法です。

 しかし、経口補水療法にも限界があります。まず、生後6ヶ月未満、体重8kg未満の赤ちゃんには適用できません。また、1) 経口補水療法を行っても嘔吐が止まらない場合、2) すでに中等度以上の脱水や低血糖に陥っている場合(ぐったりして動かず、目が落ちくぼみ、泣いても涙が出ず、尿があまり出ない)、3) 血便・激しい腹痛・高熱などを伴う場合(細菌性腸炎の可能性が高い)は、点滴による治療が必要です。子どもの状態が芳しくないときは、必ず医療機関を再受診してください。当クリニックは急性胃腸炎に対して、脱水の程度に見合った適正な治療法を選択することに努めています。
 

お腹がかぜを引いた時の食事(2009年8月7日掲載) 2010年05月12日(水)

   急性胃腸炎(お腹のかぜ)にかかって吐いたり下痢した時、どのような食事を与えますか。祖父母の言うこと、育児書に載っていること、医者の言うこと、それぞれ異なるために悩んだ経験をお持ちの親御さんは少なくないと思います。子どもの栄養状態は時代とともに向上しており、食事療法の内容も日進月歩で変わっています。今回のコラムでは、食事療法の変わらぬ基本と変わりつつある応用を解説しましょう。

 お腹のかぜは、しばしば嘔吐で始まります。胃に侵入した病原体を体外に出すための防御反応と考えれば、苦しい嘔吐も何とかやり過ごせるのではないでしょうか。数時間の嘔吐で脱水に至ることはまずありませんので、無理に止めるのではなく、ある程度吐かせてしまう方が早く楽になります。嘔吐が一段落したら(大抵は2〜4時間後)、少しずつ水分を与えてください。水分には乳幼児用イオン飲料(アクアライト、OS-1)が適します。スポーツドリンクは代替品としては不適です。詳細はコラム「嘔吐・下痢にまず経口補水療法」をご参照ください。吐き気止めの薬(ナウゼリン)は、吐き気が続いて水分の補給がうまく進まない時に用います。点滴は、吐き気が長引いて水分がまったく摂れない時に行います。ぐったりしている、顔色がよくない、尿量が極端に減っている(1日2回以下)などが目安です。暴れるほど元気な子どもを押さえつけてまで点滴をする必要は全くありません。

 お腹のかぜでは、嘔吐の後にしばしば下痢が続きます。胃から先に進んで腸に達した病原体を体外に出すための防御反応です。したがって、下痢も嘔吐と同じく無理に止めようとしてはいけません。最初の数日間は、善い細菌(ビフィズス菌など)を腸内に届ける整腸剤だけを用います。善い細菌が悪い病原体(ウイルスや細菌)を追い出してくれるんですね。下痢止めの薬は、下痢がひどい時や長引いている時に用います。

 下痢の時に悩むのが食事の進め方でしょう。昔は絶食が勧められていましたが、今は嘔吐がなくなれば下痢があっても、水分に続いて食事を早期に再開すべきとされています。下痢の最中に食事を与えると便の量は当然増えますが、栄養分を補給する方が傷んだ腸管はより早く回復します。もちろん何でも食べてよいというわけではなく、甘すぎるもの、脂っこいもの、繊維質が多いもの、牛乳などを避けた上で、普段から食べ慣れているものを少量ずつ与えましょう。昔とちょっと違うのは、繊維質の多い食品でも、リンゴ、トマト、豆類など、ペクチンを多く含むものは腸管からの水分吸収を促進するので、胃腸炎の時はむしろお勧めということです。リンゴのすりおろし汁は理にかなっているわけですね。母乳は消化・吸収がよく栄養分に富んでいるので、いつどれだけ飲ませても構いません。ミルクの場合、薄める必要はなく、量の制限も不要です。治療用ミルク(ラクトレス、ボンラクト)は、下痢が長引く時だけ用います。主食は、重湯、粥、米飯の順番が昔の標準でしたが、今は食べられるなら米飯で開始してもよいとされています。もちろん重湯や粥の重要性が失われたわけではなく、塩をひとつまみ入れれば米をベースにした経口補水液にもなります。こちらを好む子どもにはぜひ与えてください。下痢が治るにつれて(おおよそ数日から10日間)、食事の内容を徐々に元に戻していきましょう。イオン飲料は、お腹が治れば止めてください。
 

ワクチンで防げる病気(2008年9月7日 掲載) 2010年05月12日(水)

   わが国の小児医療は世界の中で最高水準を誇っていますが、ワクチンで防げる病気(VPD)の排除・制圧にかぎっては大きく遅れをとっています。先進国中、最低の水準です。ワクチンの普及を妨げる最大の要因は、「ワクチン=副作用が怖い」という思い込みでしょう。病気には自然にかかる方がよいという誤解、効果への疑問、接種に要する費用の高さ、わが国で接種可能なワクチンの種類の少なさ、なども要因にあげられます。ある調査では、7割を超える保護者が「任意接種は必ずしも受けなくてよい」と答えています。

 ワクチンの副反応はゼロではないので、保護者が不安を感じるのは当然です。しかし、重い病気やアレルギーを持たない生来健康な子どもに、重大な副作用が起こることは非常に稀です。その頻度は約100万人に1人と推定されています。過去にワクチンによる副作用と報道された事例の大半は、実際にはワクチンが原因とは特定されていません。ワクチンの安全性はきわめて高いと結論づけられます。

 ワクチンを接種せず、病気に自然にかかるとどうなるでしょう? たとえば、おたふくかぜは軽い病気と思われがちですが、約1000人に1人が難聴を起こします。治療薬はなく、回復は望めません。思春期以降の男性では4人に1人が睾丸炎を起こし、睾丸が腫れて耐えがたい激痛に襲われます。回復した後も不妊症の心配が残ります。病気に自然にかかるということは、数百倍ほど強力なワクチンを接種することと同じです。免疫は必ずつきますが、副作用(=病気の症状)も必ず現れます。

 ワクチンの効果は100%ではありません。おたふくかぜを再び例にあげると、ワクチンを接種しても20%弱の人はおたふくかぜにかかります。しかし症状は比較的軽く、重大な合併症を起こすことも稀です。また、多くの人がワクチンを受けると病気が流行せず、たとえ一部の人で免疫がつかなくても、その病気にかかることはなくなります。事実、2回の定期接種が定着している欧米では、おたふくかぜはすでに過去の病気です。接種率が30%に満たないわが国は、麻疹に続いておたふくかぜの輸出国としても非難される恐れがあります。

 数多ある感染症の中で、ワクチンで防げる病気(VPD)はごくわずかです。定期接種の麻疹/風疹(MR)、ジフテリア/百日咳/破傷風(DPT)、日本脳炎、ポリオ、結核(BCG)、および任意接種の水ぼうそう、おたふくかぜ、インフルエンザ、B型肝炎など、数えるほどしかありません。それだけにVPDのワクチンはしっかり接種したいものです。

 残念ながら、わが国の任意接種の費用は自己負担です。家計にとっては大きな重荷でしょう。しかし、ワクチンを接種しないでVPDにかかってしまったら? 通院に要する経済的・精神的負担は小さくありません。すんなり治ればともかく、運悪く重大な合併症を伴えば、負担はさらに増大します。費用対効果を考えると、ワクチンを接種する方が断然得です。

 わが国の予防接種制度のもう一つの欠陥は、受けられるワクチンの種類が少ないことです。世界100ヶ国以上ですでに実施されているヒブ・ワクチンは、わが国でも2007年1月にやっと認可されたものの、実施までになんと1年11ヶ月を要しました(2008年12月19日から接種できます)。ヒブの他にも、肺炎球菌、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルスなど、諸外国ではすでにVPDに位置づけられる病気が、わが国では依然として放置されたままです(註;ヒトパピローマウイルスは2009年12月、肺炎球菌は2010年2月に、それぞれ接種可能になりました)。

 私共は、医師会や小児科医会を通じて、任意接種の費用の減免(あるいは定期接種化)と未認可ワクチンの早期承認を行政に働きかけています。「VPDを知って子どもを守ろうの会」のホームページ(http://www.know-vpd.jp/)も併せてご参照ください。
 


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