院長からのメッセージ

夜泣きの対処法(2005年10月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   夜泣きとは、赤ちゃんが夜間に目覚めて泣き止まない状態をいいます。睡眠のパターンが完成するまでの一時的な生理現象であり、生後7〜10ヶ月をピークに1歳半過ぎまでに自然に治りますが、養育者、とくに母親にとっては大変に悩ましい問題です。夜泣きへの具体的な対策を考えてみましょう。

 まず、原因がないかどうか探しましょう。のどが渇いた、おなかが空いた、おむつが濡れている、暑い、あるいは寒い、騒がしい、衣服がきつい、などにより赤ちゃんが困っていたら、それを取り除いてあげることが先決です。湿疹やアトピーでかゆい時、中耳炎や腸重積で痛い時にも容易に泣き止みませんが、このような病的状態では普段と違う泣き方をするので、区別はさほど難しくありません。昼間にニコニコとよく遊び食欲もあれば、健康状態は良好といえます。

 原因がわからない場合(これがほとんどです)、添い寝をする、背中をさする、抱っこする、乳首をくわえさせる、はっきり起こして散歩に出るなど、一人一人の赤ちゃんに合う方法を見つけて、再び眠りに就くまで付き合うしかありません。最も大切なことは、母親が穏やかな気持ちでいることです。「心ゆくまで泣いていいよ」「とことん付き合ってあげよう」と優しい気持ちで赤ちゃんに接して安心感を与えると、夜泣きは徐々に軽減します。反対に、母親が困惑したりイライラしながらあやしても、赤ちゃんに不安が伝わるだけで、夜泣きはますます激しくなります。夜泣きは必ず治ることを信じて、大らかな気持ちで向き合ってください。

 抱き癖が自立心の育成を阻むという意見もありますが、筆者はそうは考えません。抱っこの原点は胎児を包み込む子宮です。抱っこされた赤ちゃんは、子宮の中と同じような温かさと心地よい揺れに身を任せます。抱っこにより愛着関係は強化され、赤ちゃんにとっては心の中の母親像が確立し、母親にとっては母性の発達が促進します。この時期の赤ちゃんは、大いに抱っこしてあやしてあげてください。
夜泣きは生活環境の影響を強く受けます。昼間にスキンシップをとりながら十分に活動させる、夕方(15時以降)の昼寝を避ける、入浴や授乳など寝る前に必ず行う習慣を決める、毎日一定の時刻が来たら部屋を暗く静かにして寝付かせる、などは良い睡眠の原動力になります。一日の生活リズムに乱れはないか、親の夜型生活に赤ちゃんを巻き込んでいないか、今一度見直してみてください。

 夜泣きを母親一人で抱えるのは大変です。母親の負担を軽くするには、家族、とくに父親の支援が欠かせません。母親の訴えに耳を傾けて共感し、「よく頑張っているね」とねぎらい、二人交替で赤ちゃんに対応するなど、母親の気持ちと体調にゆとりを持たせる工夫が大切です。育児サークルで子育て仲間を見つける、保育所の一時あずかりを利用して自分一人の時間を作る、などもストレスを軽減するには良い方法でしょう。

 それでも赤ちゃんの夜泣きが激しく、両親が精神的負担に耐えられない場合、漢方薬で赤ちゃんの高ぶった神経をなだめる手立てがあります。とくに「甘麦大棗湯」は甘草、ナツメ、小麦の成分からなり、赤ちゃんにも飲みやすく安全です。母子ともに服用することで、いっそうの効果を見ることもあります。夜泣きでお困りの方はどうぞご相談ください。
 

子どもの薬の話(再び)(2007年9月3日 掲載) 2010年05月12日(水)

   前々回のコラム「細菌の逆襲」で、抗生物質を必要としない(あるいは効かない)場面にまで薬が安易に使われている実情と、その結果として耐性菌が猛烈な勢いで増えている危機的状況をお伝えしました。わが国の小児医療の一部において、抗生物質のほかにも薬の使い過ぎがしばしば目につきます。いくつかの実例を紹介して問題点を探ってみましょう。

 ある日、嘔吐と下痢を起こした子どもが来院しました。お腹をさわり聴診器を当てた上で通常の胃腸炎(おなかの風邪)と判断し、整腸剤と鎮吐剤を処方しました。お母さんは心配そうな表情で、「兄や姉が嘔吐したとき、他の医院では必ず点滴を入れてくれます。この子には点滴を入れなくても大丈夫ですか。脱水の心配はありませんか。抗生物質は要らないのですか」と質問されます。「脱水の徴候はないし、口から水分を少しずつ摂れているので、今のところ点滴の必要はありません。抗生物質はこの風邪には効きません」と答え、家庭での水分・食事の与え方と脱水症状の見分け方について詳しく説明しました。3日後にすっかり元気になったわが子を抱いて、お母さんは「点滴を入れなくても治るんですね」とにっこり笑顔を見せて下さいました。脱水がまだ軽度で水分を摂れていれば、わざわざ痛みをこらえてまで点滴をしなくても大丈夫。嘔吐=脱水=点滴と短絡的にとらえずに、点滴が本当に必要な状態かどうかを見きわめる技量が医師に求められます。抗生物質に至っては、通常のウイルス性胃腸炎には全く無益。下痢をかえって悪化させるだけで、「念のために」飲まされる子どもにとっては迷惑な話です。

 別の日、咳と鼻水が出ている子どもが来院しました。背中に小さなテープが貼られています。「これはどうしました?」と尋ねると、お母さんは「友達にもらった”咳止めシール”です。いつもはこれを貼るとすぐに咳が止まるんでけど …」とのお答え。咳止めシールの正式名はホクナリン・テープまたはセキナリン・テープ。喘息または気管支炎の治療に用いられます。通常の風邪の咳には効きません。効果が現れるまでに約4時間かかるため、貼り付けた直後には効きません。薬が効いたような錯覚を生じたのは、咳き込んだ拍子に気道を詰まらせていた痰が飛び出たためでしょう。「この薬は自己判断で貼らないでくださいね。下手に使うと心臓がドキドキしますよ」と説明したところ、お母さんは「薬の性質を初めて知りました。風邪には役に立たないんですね」と納得して下さいました。

 子どもの身体に生来備わっている防御機構や治癒機転が、薬や点滴の効果と勘違いされる例は、ほかにも数多くあります。抗生物質を飲んで熱が下がったように見えても、実は子ども自身の免疫反応で治った例(風邪の約8割は抗生物質が効かないし無くても治ります)。アレルギーの薬を飲んで咳が止まったように見えても、実はアレルギーではなく長引いていた風邪が自然に治った例(アレルギー疾患は過剰診断されがちです)。ほかにも、咳も鼻水も出ていないのに咳止め・鼻水止め。何の説明もないままにテオドールなどの喘息薬、あるいは経口ステロイド薬。子どもに使用が制限されているはずのいくつかの薬 …。わが国の小児医療では、薬が不適切に過剰使用される場面が多いと感じます。薬は病気を退治するための大切な武器であり、必要なときには強い薬も弱い薬もしっかり使わなければなりません。しかし一方で、薬は使い方を誤ると毒にもなります。「小児科医が処方する薬は、外科医が振るうメスに匹敵する」ことをたえず意識し、本当に必要な薬を選んで子どもに与えることを心がけたいと思います。病気に対する保護者の不安を取り除くために、薬をただバラまくのではなく、丁寧な診察と説明、その上に適切な投薬を行うことで、不安の解消と病気の治療につなげたいと考えています。皆様のご理解とご賛同をいただければ幸いです。
 

子どもの薬の話(2006年1月13日 掲載) 2010年05月12日(水)

   内科系(小児科、内科など)の治療の主役は「薬」です。病巣を切ることを最終的な解決手段とする外科系とは、この点が根本的に異なります。筆者は、研修医のときに先輩から「小児科医が処方する薬は外科医がふるうメスと同等の重みがある」と厳しく教わりました。今もその戒めを心して薬を決めています。筆者が子どもに薬を処方する際の方針は、「真に必要な薬をシンプルに」。あれもこれもと欲張りすぎると、量が増えて味が複雑化して飲みにくい上に、稀といえども薬物相互作用や副作用の心配が増します。今回のコラムでは、薬に関する疑問についてお答えしましょう。

1. いつ飲むか?
 薬の袋に「1日3回、食後」と記されていても、食後に限定する必要はありません。食前や食間でも大丈夫です。むしろ食後にこだわって服薬が抜けたり不規則になる方が問題です。起きている時間を三等分して、たとえば「朝8時、昼2時、夜8時」とか、幼稚園や学校で昼に飲めない場合は「朝、帰宅時、就寝前」にしてもいいでしょう。特別な飲み方が必要な薬は、その都度ご指導いたします。

2. 何に混ぜてもいいか?
 薬は水と共に飲むのが原則ですが、どうしても飲めない場合は、牛乳・アイスクリーム・チョコクリーム・ゼリー・メープルシロップ・ジャムなどに入れても構いません。溶かした薬をシャーベット状に冷やすのも良い方法です。注意点として、乳児にはハチミツを混ぜて与えないでください。乳児の主食であるミルクに混ぜると、飲み残したりミルク嫌いになる恐れがあります。混ぜてはいけない物がある薬は、その都度ご指導いたします。

3. 吐いたらどうするか?
 飲んだ直後に明らかに薬を吐いた場合は、同じ量をもう一度飲んでも構いません。5〜10分以上たってから吐いた場合は、追加して飲まない方が無難でしょう。

4. いつまで続けるか?
 最後まで飲むべき薬か、症状が軽快したらやめてよい薬か、処方時にご説明いたします。途中でやめてよい薬(解熱薬、鎮吐薬、整腸薬、感冒薬など)は、同じ症状が現れたときに再使用できます(抗生物質は不可です)。ただし「薬がまだ手元にあるから」といって受診が遅れぬようにご注意ください。病状が良くならないときは早めの再受診をお願いいたします。残薬の保存期間の大体の目安は、散剤3〜6ヶ月間(乾燥剤と共に缶に入れて室温で)、シロップ剤2〜3週間(冷蔵庫で)、坐剤1年間(冷蔵庫で)です。もしも散剤が湿気を吸ったりシロップ剤が混濁したら使わずに廃棄してください。

5. お薬手帳の用途は?
 お薬手帳は必ずご持参ください。@ 他院(他科)で処方された薬との重複や相互作用を避けるために必要です。A アレルギー歴や副作用歴を知ることができます。B これまでの投薬の内容が病気の診断に役立つ場合があります。
 

かぜと抗生物質(2006年2月27日 掲載) 2010年05月12日(水)

   急性上気道炎(いわゆる風邪)の多くは抗生物質を必要としません。今回のコラムでは「抗生物質の使いすぎは耐性菌を増加させる」「抗生物質はあらゆる風邪に効く万能薬ではない」「抗生物質の効く風邪をきちんと選別しなければならない」ことを解説します。

 抗生物質(正式名は抗菌薬)は細菌の生育を抑える薬として、これまで多くの人々の命を救ってきました。細菌感染症はやがて制圧され過去の病気になるだろうと期待されたものです。しかし近年、抗生物質の効かない耐性菌が続々と登場するに及んで、このような楽観論は完全に消し飛んでしまいました。たとえば、肺炎球菌の耐性化率は10年前には10%でしたが、現在は50~90%という驚くべき数値にはね上がっています。その結果、肺炎球菌による中耳炎や肺炎が治りにくくなったことを日々の診療で体験します。私たちが細菌感染症との戦いの中で学んだことは、抗生物質を使うと耐性菌が必ず現れるということです。従来は新しい抗生物質を作って耐性菌に対抗してきましたが、新薬の開発が限界に達しつつある現在、このようなイタチごっこを永遠に続けることは不可能です。

 耐性菌の出現率は抗生物質の使用状況と密接に関連します。風邪に対する抗生物質の適正使用が厳しく定められている欧米諸国では、耐性菌の出現率はごくわずかです。しかし明確な基準をこれまで持たなかった日本では、抗生物質の使用量の多さに比例して耐性菌も高率に検出されています。抗生物質の無意味な乱用は避けねばなりません。

 風邪の80~90%はウイルス感染です。冬のRS、春と秋のライノ、夏のエンテロが代表例です。ほかにもアデノ、パラインフルエンザ、コロナなど、多くのウイルスが風邪の原因となります。これらのウイルスに対して、抗生物質はまったく効きません。したがって、すべての風邪に一律に抗生物質を使うことは正しくありません。生体のもつ免疫能で自然に治る、抗生物質を必要としない風邪の方がずっと多いのです。筆者は子ども一人一人の病状をよく観察して、抗生物質が最初から必要な風邪(10~20%の細菌感染)かどうかを慎重に見きわめます。抗生物質が当面は不要と判断されたら、子どもの免疫能を尊重してそれを伸ばす治療を心がけます。しかし時には免疫能が力及ばずに風邪が長引き、細菌が後から割り込んで二次感染(中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎など)を続発する場合があり、これには抗生物質が必要です。最初から抗生物質を使っても二次感染は予防できないので、二次感染が心配なケース(免疫能が未成熟な赤ちゃん、全身状態の悪い子ども)では1~3日ごとに診察を繰り返し、抗生物質の追加に踏み切るタイミングを逃さないように努めます。これを専門用語で”wait and see approach”とよびます。

 抗生物質の使用法には議論の余地がまだまだあります。当クリニックの基本方針は日本外来小児科学会の”抗菌薬使用ガイドライン(2005年)”に準拠していますが、今後も医学の進歩に合わせて改良を重ね、より良い形に発展させたいと考えています。
 

アレルギー疾患の増加(2006年12月30日 掲載) 2010年05月12日(水)

   気管支喘息にかかっている幼稚園児や小中学生の割合が10年間で倍増し、過去最高を更新したことが、文部科学省の学校保健調査(平成18年度)で明らかにされました。喘息児の割合は、幼稚園2.4%、小学校3.8%、中学校3.0%、高校1.7%にのぼっています。また、今年度から調査項目に加えられたアトピー性皮膚炎の割合は、幼稚園3.8%、小学校3.6%、中学校2.8%、高校2.2%です。他の調査結果と合わせて見ると、アレルギー疾患すべて(花粉症や食物アレルギーも含めて)が増加していて、おおよその有病率は5〜15%と推測されます。当クリニックにおいても、これとほぼ同じ傾向が認められます。

 わが国でアレルギー疾患が増えている背景には、さまざまな理由が考えられています。最も代表的な要因は、@ 居住空間の変化[ダニやカビが繁殖しやすい密閉性の高い住宅]、A 食生活の変化[欧風化に伴う、卵白・乳製品・小麦・ナッツ類など、従来の和食にない食材の普及]、B 大気汚染[排気ガス、スギ花粉など]の三つです。さらに、C 幼児期に細菌にあまり接触しないで育つとアレルギー体質になりやすい!? という “衛生仮説” が提唱されています。真偽は今後の研究成果を待たねばなりませんが、現在注目を集めている仮説の一つです。

 アレルギー疾患は慢性の病気です。症状をコントロールして完治に導くまでには、それなりの長い時間と努力が求められます。たとえば気管支喘息に対して、薬物療法(内服薬・吸入薬など)と環境整備(防煙、ダニ・ほこり対策など)が治療の二本柱になり、さらに日頃から呼吸の良し悪しに注意を向ける必要があります。アトピー性皮膚炎に対しては、スキンケア(皮膚の保湿・保護)と薬物療法(主に外用薬)と環境整備(ダニ・ほこり対策など)が不可欠で、これに食物アレルギーを合併していれば除去食療法も加わります。いずれもライフスタイルに深く関わる問題ばかりで、患児および家族と医療側(医師および看護師)との間に良好な信頼関係が築かれなければ、治療は成り立ちません。医師にとって、アレルギー疾患を診断することは、そのあとに長く続く治療を共に進めていく責務を背負うことに繋がると考えています。

 アレルギー疾患に対する、当クリニックの基本姿勢を明記いたします。第一に、患児および家族に病気への理解を深めていただく必要があり、そのための説明を繰り返し行います。また、処方されている薬の名前、用量・用法、目的を機会あるたびにお話しいたします。第二に、精神的なバックアップを重視しています。病気や治療法への不安がありましたら、どうぞ何でもお気軽に御相談ください。第三に、小児科医として、患児の人格や成長を含めた全人的な診療を行います。アレルギーだけを切り出して治療するのではなく、患児の置かれた状況(家族、幼稚園・学校、日常生活、性格など)に配慮して、息の長い共同作業を行う気持ちで病気の治癒を目指します。第四に、日進月歩の発展を遂げているアレルギー治療の最新情報をにらみながら、患児にとって最良の治療法を選択してまいります。
 

ダニ対策をすべての家庭で(2007年3月1日 掲載) 2010年05月12日(水)

   アレルギー疾患にかかる子どもが増えています。原因の一つは室内で発生するハウスダストです。ハウスダストとは、家の中のダニ、カビ、毛、フケ、繊維など、ホコリの総称。中でもアレルギーに深く関わるものはダニです。ハウスダストに対して過敏性を有する人々のほぼ100%が、ヒョウヒダニの死骸やフンに反応します。ダニ退治こそが、ハウスダストによるアレルギー疾患(喘息、鼻炎、アトピー性皮膚炎)を解決するための基本です。

 ダニは室内で年中生息しています。気温20〜30℃、湿度60%以上がダニにとって繁殖しやすい環境です。1つがいのダニを高温多湿の環境に放つと、3ヶ月後には30万匹にまで増殖し、空気中に大量の死骸やフンを漂わせます。近年、エアコンの普及や建物の気密性の向上により、人にとってもダニにとっても快適な室内環境がもたらされました。増え過ぎてしまったダニを一掃するための対策を考えてみましょう。

 布団、カーペット、ソファ、カーテン、ぬいぐるみなどがダニの繁殖場所であり、これらを清掃することがダニの除去に有効です。しかし、忙しい日常生活の中であらゆる場所を完璧に片付けることは難しいと思います。そこで子どもが長い時間を過ごす場所から順々に、(1) 寝具(布団・ベッド)、(2) 寝室、(3) 居間 を優先的に清掃することを提案します。
 @ 寝具対策は、布団カバーを週1回以上丸洗いする、布団を週1回以上天日干しし(花粉の季節や梅雨時は布団乾燥機の代用も可)、取り込む前に布団をたたいてホコリを表面に浮かび上がらせ、取り込んだ後に掃除機で片面あたり40〜60秒間吸引する(専用ノズルあり)。以上を半年間続けるとダニの量が激減し、同時に喘息発作も著しく減少することが実証されています。さらに、経済的余裕があれば高密度繊維性の防ダニ布団カバーを使用する、枕の中身をプラスチック製にする、などが有効な手立てです。
 A 床はフローリングが理想的です。掃除の際に大切なことは、先に拭き掃除をしてから次に掃除機をかけることです。先に掃除機をかけるとダニが空気中に浮遊して、後から拭き掃除をしてもダニを効率よく取り除けません。カーペットや畳については、ダニが表面から中ほどにかけて活動しているため、吸引力の強い掃除機を用いて(あるいは隙き間ノズルをつけて)、いろいろな方向からゆっくり(1畳あたり40〜60秒間)動かすと、ダニを効率よく吸い取れます。床掃除は週2〜3回以上必要です。
 B 湿気対策は、部屋の換気です。晴れた日にはこまめに窓を開け、部屋の中に風を送り込みましょう。窓が開けられない季節には、エアコンのドライ運転や除湿器が有用です。
 C ぬいぐるみはできるだけ数を少なくし、3ヶ月に1回は洗濯します。ダニの餌をなくすことも大切です。ダニの好物は、人の毛やフケ、ペットの毛、菓子の食べこぼし、カビなどです。部屋やソファの隅々にまで掃除機をかけて、ダニの餌の供給を絶ちましょう。

 以上の対策は、アレルギー疾患を持つ人のいる家庭に限りません。現代の子どもたちにとって、将来的にダニに感作される可能性は十分にあります。生後早い時期からダニへの曝露を減らす努力は大切です。また、ダニ対策を施すと、ダニ・アレルギーを持たない喘息児の発作も減ることが知られています。おそらく、ダニ以外のカビ、雑菌など人体に悪影響を及ぼす因子が同時に取り除かれるからでしょう。ダニ退治は、アレルギー疾患の有無にかかわらず、すべての家庭において重要なことです。ぜひ今日から取り組んでみてください。
 

花粉症の対策(2008年1月20日 掲載) 2010年05月12日(水)

   今年も春季カタルが始まりました。今や国民の5〜10人に1人が悩まされているスギ・ヒノキ花粉症。この厄介な病気にどのように向き合えばよいでしょうか。

<アレルギーとは? 花粉症とは?>
 アレルギーとは、ある特定の物質に対して過敏に反応する現象です。アレルギーを起こす物質をアレルゲンとよびます。花粉症におけるアレルゲンの代表はスギ花粉です。スギ花粉症は日本人に特有で、近年かかる人が急増しています。増加の原因として、スギの植林政策、大気汚染、食生活や住宅環境の変化が挙げられます。スギ以外にも40〜50種類の植物による花粉症が知られています。ヒノキ、シラカバなどの樹木花粉、カモガヤ、ブタクサなどの雑草花粉が代表です。花粉症はアレルギー体質の人だけがかかるのではなく、元来健康な人でも毎年花粉を浴び続けているとかかることがあります。

<子どもの花粉症の実態は?>
 1980年代の調査では「4歳以下のスギ花粉症はいない」と報告されていました。ところが2002年の全国調査では、0〜2歳が0%、3〜5歳が5%、6〜9歳が10%、10〜12歳が12%、13〜15歳が15%の有病率でした。患者数が増加し、発症が低年齢化しています。

<花粉症の症状は?>
 主に目と鼻に現れます。目の症状としては、かゆみ、涙目、目やに。鼻の症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまり。ただし、子ども(とくに幼児)は目や鼻の不快感を病気と認識できないので、自分から「調子が悪い」とはなかなか訴えません。様々な仕草に花粉症のサインが出ているので、親には見落とさない注意が必要です。具体的には、指で鼻をこする、鼻をほじる、顔をしかめる、いびきをかく、鼻血が出やすい、指で目をこする、しきりにまばたきする、などが特徴です。さらに、鼻や目の周囲の肌荒れや赤みも要注意です。

<予防対策は?>
 花粉との接触を絶つことが基本です。対策の第一は、晴れた風の強い日(とくに雨上がりの翌日)は外出を控えることです。しかし「今日は花粉が飛んでいるから学校を休みなさい」とは言えませんね。そこで、外出時はマスク、帽子、できれば眼鏡も着用する。しかし、これも子どもにとって容易ではありません。対策の第二は、室内への花粉の侵入を防ぐことです。外出から帰ってきて家に入る前に、服や頭に付着した花粉を十分に払い落とす。家に入ったらすぐに、洗顔(眼)、うがい、鼻かみを行う。以上を心がければ外出はオーケーです。さらに、窓の開閉に気をつける、布団や洗濯物を外に干さないか、外に干す時は取り込む際に花粉を十分に払い落とす。これらを家族ぐるみで協力して行えば予防効果を期待できます。

<薬による治療法は?>
 鼻炎には経口薬(飲みぐすり)と点鼻薬(鼻ぐすり)、結膜炎には点眼薬(目ぐすり)があります。各自の症状に合わせて薬を選択いたします。目のかゆみが強い子どもには、市販の人工涙液(ソフトサンティア、アイリスCL-1など)による洗眼をお勧めいたします。
 最近、花粉が飛散する1〜2週間前から薬を始める「初期療法」が注目されています。症状が悪化すると薬が効きにくくなるため、早いうちに薬を始めて症状が軽いままシーズンを乗り切ろうという算段です。毎年のように花粉症で辛い思いをする方にお勧めです。
 薬で治らない場合はレーザー治療なども考慮されます。
 

溶連菌って何!?(2008年11月4日 掲載) 2010年05月12日(水)

   溶連菌感染症は、子どもの咽風邪(のどかぜ)の約15〜20%を占める、“ありふれた” 病気の一つです。迅速検査法により約10分で診断でき、抗生物質により大多数は1日で解熱します。しかし、原因菌がよく判らず治療法が不十分であった前時代には、リウマチ熱や急性腎炎を続発する重い病気と考えられ、法定伝染病の指定にもとづき患者は隔離されていました。診断と治療が容易になり伝染病の扱いが格下げされた現在でも、保育園・幼稚園・学校などでは過剰に(異常に?)恐れられています。今回のコラムでは、溶連菌を正しく理解するための知識をお届けいたします。

 溶連菌感染症を疑うポイントは、その特徴的な症状です。発熱とのどの痛みが著しいわりに、咳や鼻水がほとんど出ません。皮膚の赤いボツボツ(発疹)、頸のグリグリ(リンパ節腫脹)、赤く腫れた舌(イチゴ舌)、吐き気などを伴うこともあります。咽の赤みは非常に強く、慣れた医師が見れば一目で溶連菌と判断できます。咽の赤みが明瞭でないこともたまにあり、その場合は綿棒でのどをこすって溶連菌の有無を確かめます。結果が出るまでに昔は約2日を要しましたが、今の検査法ではわずか10分です。便利になったものです。溶連菌の流行は晩秋から翌年の初夏にかけて多く、真夏から早秋にかけて少なくなります。年齢層は3〜13歳児に多く、その上下でかかることは比較的まれです。年がら年中、乳児から大人まで皆、溶連菌にかかるという話を某所で聞きますが、医学的には甚だ疑問です。

 溶連菌による咽風邪の多くは6日以内に自然治癒します。それでも抗生物質を用いて治療する理由は、咽風邪の症状を早く治し、他人への感染を防ぎ、万一の合併症を抑えるためです。溶連菌感染症の合併症で最も怖いのはリウマチ熱です。リウマチ熱は開発途上国ではまだまだ見かけますが、溶連菌を適切に治療している国々では0.02%以下の発症率に過ぎず、日本でも今やほとんど見られない病気です。筆者も過去20年間、新規の発症例に遭遇していません。溶連菌感染症を正しく診断し治療することは依然として重要ですが、リウマチ熱も急性腎炎も激減した今、溶連菌を過度に恐れる必要はないと思います。とくに2歳以下の子どもではリウマチ熱の発症が非常に少ないため、治療せずに免疫をつける方がよいとの意見もあるくらいで(筆者はそこまで大胆に割り切れませんが …)、治療を行うにしても通常の半分の5日程度の抗生物質で十分です。大人に関しても同様です。

 適切な治療を行えば、ほとんどの場合は24時間以内に症状が消え、他人への伝染力を失い、登園・登校が可能になります。2日目になっても熱が下がらない場合は、溶連菌以外の感染症(主にウイルス性)を併発している可能性があるため、登園・登校せずにクリニックを再受診してください。また、溶連菌は治療終了後に再発することが時々あります。この場合は抗生物質を変更して再治療するほか、家族内保菌者の検索などもあわせて行います。
 
 咽風邪の中で、溶連菌以外の約80〜85%はウイルス感染症であり、抗生物質がなくても身体の抵抗力(免疫反応)で治ります。「のどがちょっと赤い」という理由だけで安易に抗生物質を乱用することは、薬剤耐性菌の増加と重症感染症(中耳炎、肺炎、髄膜炎など)の難治化につながります。われわれ医師は、抗生物質の適正使用を厳に心がけねばなりません。
 

ヒブワクチンのすすめ(2007年5月15日 掲載) 2010年05月12日(水)

   インフルエンザ菌b型は、細菌性髄膜炎を起こす力を持つ細菌です。冬季に流行するインフルエンザ・ウイルスとは全く別の病原体で、両者の混同を避けるためにHib(ヒブ)と略称されます。今回のコラムでは、Hibによる髄膜炎の実態とHibを防ぐためのワクチンについて解説いたします。

 子どもがかかる感染症の中で最も怖いのが「細菌性髄膜炎」です。咽頭(のど)や鼻腔に潜む細菌が血液に侵入し、血液脳関門とよばれるバリアを破り、脳神経を冒す病気です。日本では毎年1000人近くの子どもが細菌性髄膜炎にかかり、その原因菌の6割をHibが占めます。つまり毎年600人の子どもがHib髄膜炎にかかっている計算です。5歳未満人口10万人あたり8〜9人の罹患率です。特に0〜1歳児でHib髄膜炎の70%を占めます。

 Hib髄膜炎は早期診断が難しい病気です。発熱と嘔吐で発症しますが、初日から髄膜炎の特徴が現れる症例は20%に過ぎず、そのため風邪や胃腸炎と区別がつきにくく、診断が遅れることが多々あります。その上、Hib髄膜炎は治療がしばしば難しい病気です。抗生物質の乱用により薬剤耐性化が進行しているためで、Hibの50%以上にペニシリン系の薬剤が効きません。医学の進歩した現代でも、Hib髄膜炎にかかった子どもの5%が命を落とし、25%が重い後遺症(精神遅滞、てんかん、難聴など)に苦しんでいます。

 以上のようにHib髄膜炎は大変に怖い病気ですが、ワクチンを接種すればほぼ100%これを予防できます。Hibワクチンは1980年代後半から海外で使われ始め、現在では100ヶ国以上で使用され、94ヶ国で乳幼児の定期接種に組み込まれています。その結果、Hib髄膜炎の罹患率は1/100以下に激減し、世界的に見れば過去の病気になりつつあります。ワクチンの効果と安全性はすでに十分に実証されています。「予防にまさる医療なし」の考え方を改めて強調したいと思います。
日本でもようやく2008年12月19日からHibワクチンの接種が開始されます。接種のスケジュールは次の通りです。
(1)生後2ヶ月〜7ヶ月未満;4〜8週間隔で3回(三種混合ワクチンとの同時接種が可能で、この場合は3〜8週間隔も可)、1年後に1回、計4回
(2) 生後7ヶ月〜1歳未満;4〜8週間隔で2回(三種混合ワクチンとの同時接種が可能で、この場合は3〜8週間隔も可)、1年後に1回、計3回
(3) 1歳〜5歳未満;1回のみ(3歳を超えるとHibに対する免疫力が徐々に増し、5歳を超えるとワクチンは不要とされています)

 ワクチンの主な副反応は、接種部位の発赤・熱感・腫脹、発熱などで、三種混合ワクチンと同等です。重大な副反応(アナフィラキシーショックなど)はきわめて稀です。

 日本におけるHibワクチンの扱いは、定期接種(公費で受けられ、万一の健康被害も国が補償する)ではなく、任意接種(希望者のみ。自費。健康被害への補償額も少ない)です。ワクチンの価格は1回あたり7000円前後です。子どもの健康はお金には代えられませんが、若い子育て世代には大きな負担になると思います。私たち大和市小児科医会は、大和市長に接種費用の公的補助を訴えています。また、国(厚生労働省)に対しては、定期接種(すでに世界では常識!)に一刻も早く格上げするように働きかけてまいります。
 

夏の健康管理(2008年6月11日 掲載) 2010年05月12日(水)

   夏かぜの季節が始まりました。不思議なことに、夏かぜという言葉はあっても、冬かぜという言葉は聞きません。夏かぜには「暑い季節にかぜをひくなんて」とか「まあたいしたことはなかろう」というニュアンスが込められているような気がします。しかし夏かぜといえどもまれに重症化することがあり、決して油断はできません。また、夏かぜばかりでなく、食中毒や皮膚の病気や不慮の事故など、夏には子どもの健康をそこなう要因が数多く潜んでいます。夏は子どもの健康管理において重要な季節です。

 夏かぜを起こす主な病原体は、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、アデノウイルスです。これらのウイルスが起こす代表的な病気をあげてみましょう。
 [1] ヘルパンギーナ
   原因はコクサッキーウイルスやエコーウイルスです。発熱と口の中の水疱が特徴です。水疱のために口の中が痛くなり食欲が落ちます。数日以内に治ります。
 [2] 手足口病
   原因はコクサッキーウイルスやエンテロウイルスです。手のひら、足の裏、口の中などに水疱が現れます。発熱を伴うケースは三分の一です。数日以内に治ります。
 [3] 咽頭結膜熱
   原因はアデノウイルスです。高熱と目・のどの発赤が特徴です。熱は約3〜7日続いた後、自然に下がります。プールでうつされやすいのでプール熱ともいいます。
 以上の病気に共通する特徴は、飛沫感染または接触感染でうつること、咳や鼻水はほとんど出ないこと、抗生物質が効かないこと、数日の経過で自然に治ること、熱のわりには元気が保たれること、しかしきわめてまれに脳炎・心筋炎・重症肺炎などを続発することです。したがって、元気がまったくなく動こうともしないとか、とろとろ寝てばかりで起こしても起きないとか、いつもと違って変だ!と感じられたら早めの受診をお願いいたします。

 夏は食中毒の季節でもあります。注意しなければならない食材は、牛肉(とくに挽き肉)、鶏肉、卵、生魚などです。これらを調理した包丁やまな板も要注意で、危ないと感じたら加熱滅菌しましょう。さらに、調理する手指をよく洗うこと(傷があるときはとくに注意)、加熱した食物をとること、加熱後は内部まで十分に冷却してから冷蔵庫に保管すること、しかし貯蔵はなるべくしないこと、などが食中毒を防止するための工夫です。

 夏には皮膚の病気が増えます。中でも伝染性膿痂疹(とびひ)が目立ちます。あせもや虫さされで掻き傷を作りやすい上に、高温多湿で菌が増殖しやすいためです。日頃から肌の清潔を保つことでとびひを防ぎましょう。

 夏に多い事故として、熱中症、溺水、怪我があげられます。それぞれの防止法は別稿に譲りますが、暑い屋外で遊ぶときは適度の休憩と水分・塩分の補給を心がけること、また川や海で遊ぶときは監視を怠らないことを、保護者の方々にお願い申し上げます。わが国における1〜14歳の死因の第一位が事故であり、夏はその発生件数が大幅に増えると思われます。
 


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