院長からのメッセージ

子どもの睡眠を見直そう(2008年5月11日掲載) 2010年05月12日(水)

   「寝る子は育つ」と昔から言われてきたとおり、子どもの健やかな成長と睡眠の間には密接な関連があります。しかし子どもを取り巻く生活環境は、過密なスケジュール、身体を使う外遊びの減少、メディアやゲーム機の普及、生活の夜型化など、睡眠時間の大幅な減少をもたらす状況ばかりです。日本の子どもの睡眠時間は減少の一途をたどり、今や先進国の中で最も短くなってしまいました。

 睡眠が不足すると、子どもの身体にさまざまな悪影響が現れます。まず、脳が休息できなくなり、情緒が安定せず集中力や注意力が低下します。睡眠時間を削って勉強しても成績が上がらないことは、さまざまな研究で証明済みです。また、身体にも不都合を生じます。自律神経系には、昼間起きている間に身体を活発に動かす交感神経と、夜間リラックスしている間に働く副交感神経があります。睡眠が不足したり不規則だったりすると自律神経系のリズムが崩れて、体温や血圧や心拍数など身体の重要な調節系が乱れます。その結果、体調はすぐれず元気は出ません。さらに、成長ホルモンの分泌が夜間睡眠時に増加することから、睡眠の不足が成長障害の遠因になる可能性も指摘されています。

 人には生体時計が備わっています。脳の視床下部という部分にあり、神経細胞と睡眠物質(メラトニンなど)によって作動しています。地球の1日は24時間ですが、生体時計の1日は25時間です。人は毎朝、太陽の光を浴びることで生体時計の周期を短くして、地球時間に合わせています。ところが毎晩夜ふかしをして明るい場所で過ごしていると、いつの間にか生体時計の周期が25時間よりも長くなり、地球時間とのズレが大きくなります。このズレが増すほどに昼夜の区別ができなくなり、慢性の時差ぼけ状態に陥ります。これが脳の発達によくないことは明らかです。

 質の良い睡眠を得るために、家庭環境を今一度見直してみませんか。生活のリズムを整える際に最も大切なことは、早寝よりもまず早起きです。朝のまぶしい陽光の中で、子どもを起こしましょう。朝ごはんをしっかり食べさせて、日中は元気に活動させましょう。昼寝を必要とする子と必要でない子がいますが、昼寝をする場合でも午後3時頃までには切り上げましょう。夕食と入浴の時間が就寝直前にならないように段取りをしましょう。寝る時間になったら、部屋の照明を暗くしましょう。日中にしっかり活動して疲れれば、自然と早寝になります。子どもの生活習慣の基本は「よく身体を動かし、よく食べ、よく眠る」ことです。それでも寝つきが悪い子どもには ”入眠儀式” が有効です。たとえば、パジャマに着替える、子守唄を歌う、絵本を読み聞かせる、枕元にぬいぐるみを置くなど、子どもが気に入る儀式を一緒に考えてあげましょう。親御さんの仕事によっては夜遅く帰宅する場合もあるでしょうが、子どもを大人の生活リズムに巻き込まず、子どもの生活空間と時間をしっかり確保してあげてください。子どもとのスキンシップは、真夜中ではなく朝の光の中で行いましょう。子どもの眠りについてもっと詳しく知りたい方には、早起きサイト(http://www.hayaoki.jp)をお勧めいたします。
 

成育外来の開設に向けて(2006年5月11日掲載) 2010年05月12日(水)

   当クリニックは、2006年8月以来、毎週土曜午後に「乳幼児健診」「成育外来」を行っています。今回のコラムでは「成育外来」とは何か!? についてご説明いたします。

<子育てを支援します>
子どもの特性は、心身ともに伸び続けることです。体が伸びること(身長、体重、頭囲など)を成長、能力が伸びること(運動、言語、社会性など)を発達とよびます。成長と発達の過程には個人差が大きく、単なる「のんびり屋さん」であって最終的に追い付く子もいれば、病気(あるいは体質)のためにずっと遅れたままの子もいます。成長や発達に関するご家族の心配や悩みを解消するために、私達クリニックのメンバーは共に解決策を考えてまいります。「成育外来」は、子育てに頑張っているご家族に共感し、アドバイスと支援を提供する場所です。

<成長相談 = 体のサイズ(大きい、小さい、太っている、やせ)に関する相談を承ります>
 子どもの大小はさまざまです。個人差の多くは体質によりますが(たとえば親の背が高ければ子も高い)、伸びを妨げる病気が隠れている場合もあります。「まわりの子と比べて極端に小さい」「以前は順調に伸びていたのに最近になって伸びなくなった」「いくら食べても体重があまり増えない」「体重が急激に減った」などでお悩みの方はご相談ください。逆に、「食べすぎて困る」「太りすぎ」「糖尿病が多い家系なので気になる」「生活習慣病の予防法を知りたい」という方もご相談ください。体質、栄養、病気(とくに内分泌疾患)、生活習慣などの各方面からアプローチいたします。

<発達相談 = 能力(遅い? 個性的すぎる?)に関する相談を承ります>
 乳幼児期における発達の個人差は大きく、すべてに早い「おませさん」もいれば、ゆっくり伸びる「のんびり屋さん」もいます。しかし、多くの育児書には平均値しか書かれていないため、その基準から外れているとご家族の不安は大きいでしょう。まして最近では「多動性障害」「自閉症」「軽度精神遅滞」などの情報に接する機会が多いため、「うちの子は発達が遅れているのでは」「なにか障害があるのでは」「親の育て方のせいでは」という漫然とした不安をいだきがちです。「おすわりしない」「上手に歩けない」「言葉が遅い」「視線が合いにくい」「落ち着きがない」「集団行動がとれない」「育てにくい」「家系的な心配がある」などでお悩みの方はどうぞご相談ください。体質、病気(とくに神経疾患)、育児法などの各方面からアプローチいたします。保健福祉センターや専門医療機関との連携も重視しており、状況によっては先方に紹介して共同で支援する場合もあります。
 

早寝早起き朝ごはん(2006年11月1日掲載) 2010年05月12日(水)

  「早寝 早起き 朝ごはん」の国民運動をご存知でしょうか。このような合言葉を唱えなければならないほど、現代の子どもたちの生活リズムは「夜ふかし 朝寝坊 朝食抜き」に傾いています。全国的な調査によると、小学生の15%、中学生の70%は夜11時以降でないと就寝しません。小学生の15%、中学生の22%は朝食をとらずに登校します。睡眠と食事の乱れは健康を害するだけでなく、学力低下や非行にもつながるため、早急な対策が必要です。
 
 朝食をとらない小学生2千名に理由を尋ねたところ、「時間がない」「空腹でない」「気分がすぐれない」「朝食が用意されていない」の頻度順に回答がありました。このアンケート調査から浮かんでくるのは、睡眠不足(夜ふかし)、食生活の乱れ(遅い夕食、不規則な間食、夜食の習慣)、運動不足(長時間のテレビ/ゲーム)、自由時間の減少(塾、稽古事)などの問題点です。「朝食がない」に至っては、健康や食育に対する家族の無関心が現れています。

朝食は脳と体にエネルギーを供給し、集中力・気力・体力をスイッチオンにします。逆に朝食をとらないと、起床時と変わらない低空飛行を余儀なくされます。朝食を毎日とらずに生きることは、午前中の人生を損なっているのと同じでもったいないことです。健康な成人に朝食抜きの生活を1週間してもらう実験では、予想どおり午前中さっぱり元気が出なくなり、体温が約1℃低下しました。体温の低下は基礎代謝の鈍化と同義であり、太りやすく病気になりやすい状態を意味します。別の調査では、朝食抜きの子どもはテストの点数が1割低いという成績が出ました。脳が栄養不足に陥り、学習能力や意欲が低下するためです。

朝食をしっかりとるには、夜の過ごし方が大切です。子どもを親の夜型生活に巻き込まず、朝にコミュニケーションを取ることを心がけましょう。これは幼児期から身に付けたい習慣です。他にも、夜8時以降は食べ物を控える、テレビやゲームを夜遅くまでしない、夜10時に床につく、などの努力目標を立てましょう。現代の子どもたちは塾や稽古事に追われがちで、また働く母親が多いことから、理想的な生活リズムを作ることは難しいと思います。しかし、それに甘んじて不健康な生活習慣を放置すべきではありません。限られた時間を上手に使うための方策を、各家庭の実情に合わせて創意工夫されることをお勧めいたします。

 最後に、「大和市学校保健研究紀要(平成17年度)」から、小中学生の意識調査を紹介します。大和市の子どもたちは(家族も含めて)健康への意識が高いと安心できる結果でした。
 問1 朝食をとらずに学校に来るとどうなりますか?
 答1 おなかがすいて気持ちが悪い、苛々する、先生の話が聞けない、体に力が入らない
 問2 朝食をとると体がどうなりますか?
 答2 元気に運動できる、体がしゃきっとする、勉強に力が入る、おなかがすっきりする
 問3 朝食をしっかりとるにはどうすればよいですか?
 答3 早く寝る、早く起きる、体をよく動かす
 

胎内で将来の病気が作られる(2006年9月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   小さく生まれる赤ちゃんが増えています。厚生労働省の発表によると、赤ちゃんの平均出生体重は1980年に3194gだったのが、1990年に3141g、2000年に3053gと年々減り続け、この2〜3年では3000gを割り込みました。その背景には20〜30代の女性における、行き過ぎたスリム志向とダイエットがあります。肥満がすべての年代で増加している中、痩せが唯一目立つのがこの世代で、妊娠中の体重増加も低下傾向にあります。古来から日本では「小さく産んで大きく育てる」ことが美風とされ、今まさにその通りに世の中の流れが進んでいます。しかし、この現象は本当に好ましいことでしょうか!? 実は、胎児期に低栄養状態にさらされた子どもは、将来的に生活習慣病(高血圧、心臓病、糖尿病など)にかかりやすいことが、最近の調査・研究で明らかにされています。

 約20年前に英国で行われた大規模な疫学調査で、母体の栄養が悪い状態で生まれた子どもは、成人後に心筋梗塞を発症しやすいことが見い出されました。その後に世界各地で行われた追試の調査で、心臓病にかぎらず肥満、高血圧、糖尿病なども発症しやすいことが相次いで報告されました。これらの事実から導かれた結論が「生活習慣病・胎児期発症説」です。胎児期の影響が数十年先に現れる機序は、二通りが考えられています。第一は、臓器が形成される時期に栄養が不足すると構造上の小さな欠陥を生じ、成人に達する頃に負担に耐えきれなくなることです。たとえば、低栄養下では腎臓の糸球体(尿を作ったり血圧を調整する重要な部位)が必要な数だけ作られず、これが将来の高血圧の原因になることが実証されています。第二は、胎児が「外界は飢餓状態である」と勘違いして ”エネルギーを節約する代謝系” を作動させ、それが出生後も変わらず続くことです。つまり、胎児期にエネルギーを無駄遣いせずに溜め込む(= 太りやすい)体質が獲得され、出生後の飽食によって後々の肥満や生活習慣病に直結するわけです。この機序も、エネルギーの産生と消費にかかわる遺伝子の発現レベルまで見事に解明されています。

 胎児を低栄養から守るためには、妊婦に対する適切な栄養指導が不可欠です。日本産婦人科学会は、妊婦の体重増加の目安(痩せた人は10〜12kg、普通の人は7〜10kg、太っている人は5〜7kg)を提示しています。一律に「体重を増やすな」ではなく、個々の体型に合わせたきめ細かい調整が望まれます。さらにさかのぼれば、妊娠前から十分な栄養を摂取して健康的な体型を備えておくことが大切です。また、妊婦の喫煙あるいは受動喫煙が低栄養の原因の一つであることも明らかです。次世代の子どもたちを守るための重要かつ緊急の課題として、「生活習慣病・胎児期発症説」を皆様にお伝えしたいと思います。
 

子どもの病気 ウソ?ホント?(2006年4月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   日ごろ保護者の方々から寄せられることの多いご質問に答える形で、子どもの病気の常識を考え直してみましょう。当たり前に思われている知識の中に、意外と多くの誤解が潜んでいる!?ことを感じます。

[1] ワクチンを接種しなくても、病気に自然にかかればいい → ×
定期接種のBCG・三種混合・ポリオ・麻疹・風疹などの意義は言うまでもありません。これらの病気は、かかると命取りになるか、社会に重大な迷惑を及ぼす可能性があるため、ワクチンによる予防は絶対に必要です。では、任意接種のおたふくかぜと水痘(みずぼうそう)はどうでしょうか。「おたふくかぜも水痘も重い病気ではないので、自然にかかるのを待てばいい」という考えもあります。しかし、これらにかかると約1週間の自宅安静と治療が必要です。子どもは幼稚園・学校に行けない、働いている母親は仕事を休まざるを得ないなど、不都合が多く生じます。さらに重要な点は合併症です。たとえば、おたふくかぜは髄膜炎を2〜10%、難聴を0.03〜0.3%の頻度で合併します。ワクチンを接種しておけば、たとえかかっても(接種してもかかる率は15〜20%)、合併症を免れて軽症で済むことが期待できます。

[2] かぜ(急性上気道炎)を治すために抗生物質を飲む → ○(20%) ×(80%)
かぜとは、鼻水・くしゃみ・のどの痛み・軽い咳・発熱(多くは38.5℃以下)を主症状とする上気道(鼻・のど)の感染症です。かぜを起こす病原体の約20%が細菌、約80%がウイルスです。抗生物質が効くのは細菌だけで、ウイルスには効きません。かぜに何でもかんでも抗生物質を使うと、副作用として下痢を起こしたり、耐性菌(薬が効きにくい細菌)を体内で増やしたり、マイナス面の方がずっと多く現れます。「抗生物質が必要な風邪と判断したら最初からしっかり使い、必要でないと判断しても、途中から必要にならないかどうか治るまで監視する」が私の基本方針です。

[3] のどが赤いと風邪が重い → ○ または △ または ×
 のどの赤さと風邪の重さは必ずしも一致しません。のどが赤くて高熱を伴う風邪の中には、抗生物質がよく効くもの(溶連菌など)とまったく効かないもの(アデノウイルスなど)があります。のどがあまり赤くならずに高熱を伴う風邪もあります(インフルエンザなど)。のどが赤くなくても、鼓膜が赤く腫れていたり(中耳炎)、肺雑音がきこえる(気管支炎)場合もあります。「のどの赤さだけではなく、全身をよく診て、病状をよく伺って、総合的に判断する」ことが大切です。

[4] 赤ちゃんが下痢のときはミルクを薄めて与える → ×
粉ミルクを薄めることで、胃腸への負担が軽くなり下痢が早く治るでしょうか。日本外来小児科学会が出した結論は、「ミルクを薄めても薄めなくても経過に差はない、したがってミルクを薄める必要はない」です。私も同じ意見です。むしろ薄めることで栄養が長期的に不足して胃腸の回復が遅れる方がよくありません。決められた濃度で調乳して与えてください。

[5] 強い薬を飲めば病気が早く治る → ×
「薬の強さは症状の強さに応じて決める」のが正解です。軽い咳に強い咳どめ薬を用いても、病気そのものが早く治るわけではありません。逆に、重い咳に不十分な薬しか用いなかったら、治療の意味が薄れてしまいます。個々の病状をよく診た上で、薬の内容と量を決定いたします。
病気の症状の多くは、病原体を排除する生体防御反応の一面を持っています。たとえば、熱には病原体の増殖を抑える役割があります。解熱薬の目的は、平熱まで一気に下げることではなく、1℃ほど下げて身体と気分を楽にすることです。咳には気道内の痰を出す作用があります。強い薬で咳を無理に止めるのではなく、咳の原因となる痰を取り除き、痰の原因となる気道の病気(感染症やアレルギー)を治すことが先決です。下痢には腸管の病原体を排泄する役割があります。強い薬で下痢を無理に止めるのではなく、病原体に追いやられた腸内細菌(消化・吸収を助ける善玉菌)を再興させる治療が必要です。身体の持つ抵抗力を尊重しつつ、薬の力を上手に使って回復を後押しします。

[6] 保育園・幼稚園に通い始めてから、かぜをよくひく→ ○
集団生活に入ると、かぜをひいている子どもと接触する機会が増えて、かぜをもらう頻度も当然増えます。とくに最初の半年から1年間は、毎月のようにかぜをひくこともあり得ます。かぜだけで済めばともかく、もっと重い中耳炎や気管支炎を短期間に繰り返すようなら、2〜4週間ほど休園して体調を整えて出直すことも考えましょう。とくに、免疫能が未熟な3 歳以下の乳幼児には十分な配慮が必要です。しかし一方で、同年代の子どもたちとの交流は、知と心の健全な発達に欠かせません。健康に留意しながらも、集団生活を大いに楽しませてあげたいものです。なお、入園に際しては母子手帳を見直して、未接種のワクチンが残っていないかどうか確かめておきましょう。

[7] 抗生物質を飲むと下痢をする → ○ または ×
抗生物質は、感染病巣の細菌だけでなく腸内細菌(善玉菌)まで退治して下痢を起こすことがあります。しかし、抗生物質だけが悪者ではありません。病気で体調を崩すこと自体、消化能力の低下につながり下痢を起こします。ロタやノロのように、お腹を標的とするウイルスもあります。つまり、病気のときの下痢には複数の要因があります。下痢のリスクを承知の上で抗生物質を使用しなければならない場合、とくにお腹の弱い子どもや赤ちゃんには、整腸薬(乳酸菌製剤)を併用して腸内細菌を守る工夫をしています。1日2〜3回の軟便までは許容範囲内とお考えください。

[8] 台所の換気扇の下でタバコを吸えば、子どもへの害はない → ×
タバコの煙には40〜60種類の発ガン性物質と200種類以上の有害化学物質(気道刺激物質、心臓血管毒性物質)が含まれています。換気扇の下で吸ってもベランダで吸っても、あるいは空気清浄機を使用しても、有害な物質は身体に侵入することが証明されています。煙を吸わされた子どもは喘息や中耳炎などに悩まされ、将来は発ガンの危険を負わされます。わが子の健康はすべての親に共通する願いです。子どもをタバコの害から守るために、親がまずタバコを手放したいものです。
 

熱中症を防止しよう(2008年8月3日掲載) 2010年05月12日(水)

   連日の猛暑の中で、熱中症にかかる人が続出しています。熱中症とは、高温多湿の環境下で発症する障害の総称です。血圧低下と脳血流の減少で起こる「熱失神」、脱水による頭痛、めまい、吐き気、倦怠感などの「熱疲労」、脱水に加えて塩分の補給不足で起こる四肢筋や腹筋の「熱けいれん」、体温の調節機能が破綻して脳神経の働きが失われ、ときに死に至る「熱射病」の各病型があります。

 熱中症は、かかる前に予防することが肝要です。屋外にいる子どもに対して、気象条件をよく把握したうえで、涼しい場所での休憩と水分・塩分のこまめな補給を心がけたいものです。塩分補給の目安は、水1リットルにつき塩1〜2グラム(0.1〜0.2%濃度)です。顔を赤くしながら汗をたくさん流しているときは、深部体温が上昇しているサインですので迷わず休ませましょう。服装は軽装とし、吸湿性や通気性のよい素材にします。帽子は直射日光を遮るために大切です。背の低い子どもでは、地面からの照り返しで体感温度が2〜3℃高くなるため、大人が暑いと感じているとき子どもはさらに高温の環境下にいることになります。ご留意ください。風邪や睡眠不足や朝食抜きなどの体調不良も、熱中症の原因になります。疲れた身体で無理な運動をしてはいけません。身体が暑さに慣れていない時期(たとえば梅雨明け)に熱中症にかかりやすいため、日頃から適度に外遊びを奨励し、身体を暑熱に対して徐々に慣らしていく過程が大切です。暑い環境の中で3〜4日過ごすと、汗をかくための自律神経の反応が早くなり体温上昇を防ぐことが上手になります。室内にいる子ども(とくに乳幼児)には、エアコンの使用や風通しを良くすることで、熱がこもらないように配慮しましょう。最近の都会ではヒートアイランド現象のために、夕方になっても気温がなかなか下がりません。エアコンの使用には賛否両論ありますが、室外との気温差を大きくしすぎない、冷気を子どもに直接あてない、冷気が下層に溜まらないように扇風機で対流させる、適度の換気を行う、などを心がければ問題はないと思います。筆者は今の季節、室温を28℃に調整して過ごしています(建物の条件によって適温は異なります)。室内にいれば熱中症にかからないとは限りません。炎天下で自動車の中に放置された子どもが死亡する事件が毎夏、報道されます。たとえ短時間でも、子どもを車内に置き去りにすることは止めましょう。

 熱中症は応急処置を知っていれば救命できる病気です。気分がすぐれない、だるい、頭が痛いなどと訴えたときは、すぐに運動を中止させ、風通しが良く涼しい場所に衣服をゆるめて横たえ、冷たい水分(糖分と塩分を含むイオン飲料が最適)を与えましょう。アイスパックで頸や腋の下や足の付け根を冷やしたり、水を全身にかけたりすることは、体温を下げるために有用です。足を高くして末梢から中心部にかけてマッサージすることは、循環血液量を増やすために有用です。それでも、目の焦点が合わない、応答が鈍い、手足の動きが悪いなどのサインが現れたら緊急事態です。直ちに医療機関に受診してください。救急車を待つ間も、体温を下げる試みを続けてください。

 子どもの熱中症の防止には、保護者や教育現場の留意が不可欠です。高温多湿の日本の夏と上手に付き合いましょう。楽しい夏休みをお過ごしください!
 

子どもの事故は防止できる(2007年2月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   0歳児を除く子どもの死因の第一位は「不慮の事故」です。わが国で毎年1000人近くの子どもが事故で命を落としています。これはインフルエンザ脳症、麻疹、悪性新生物(がん、腫瘍)による死亡に比べて格段に多い数値です。事故は子どもにとって重大な健康問題であることを、保護者の方々に知っていただきたいと思います。
子どもには危険予知能力が備わっていないため、思いがけない行動をしばしばとります。「わが子に限って大丈夫」という楽観視は、根拠のない空想に過ぎません。事故はすべての子どもに「起こりうるもの」であり、親の注意によって「防ぎうるもの」です。日常の危険から子どもを守るための方策を考えてみましょう。

 @ 乳幼児の事故で最も多いものは誤飲です。赤ちゃんには、手にしたものを口に入れる習性があります。頻度順にタバコ、医薬品、化粧品、洗剤、殺虫剤が原因のワースト5で、他にもボタン電池、硬貨、画鋲など、それこそ何でも食べてしまいます。3歳児が口を最大に開けたときの口径は39mmです。直径39mm以下のサイズの物(親指と人差し指で輪を作り、それが何mmか知っておくと便利です)を子どもの手の届かない場所に置くことで、誤飲事故を防止できます。
 A 転倒・転落も乳幼児に多い事故です。ベッドからの転落を防止するには、ほんの数秒ほど離れる時でもベッド柵を上げることを怠ってはいけません。クーハンや歩行器は事故の報告が多いため、使用をお勧めしません。ベビーカーに乗せるときは、赤ちゃんをベルトで保持しましょう。階段からの転落防止に柵を取り付けましょう。ベランダや窓からの転落防止には、踏み台になる物を置かない、窓際にベッドやソファを配置しない、などの工夫が必要です。
 B 浴槽での溺死・溺水は悲惨な事故です。一人でヨチヨチ歩きを始める時期が最も危険です。洗い場から浴槽の縁までの高さが50cm以下だと、子どもが身を乗り出して浴槽に落ちる危険が増します。2〜3歳までは残し湯をしない、風呂場に鍵をつけて子どもを入れない、子どもだけで入浴させない、などが浴槽での事故を防止する要点です。
 C 自動車事故による死亡も後を絶ちません。傷害を軽減するには、チャイルドシートで身体を拘束することが不可欠です。ある調査では、シートの装着法が誤っているケースが過半数を占めました。シートの背もたれを前方向に強く引っ張り、座席とのすき間が10cm以上あくようだと、正しく装着されていません。わが家のシートを再点検してください。
 D 自転車事故にもご注意ください。ヘルメットの着用、足部ガード付きの補助椅子の使用、子どもを乗せる時は最後でおろす時は最初に、を心がければケガを防止できます。
 E 火傷(やけど)の防止には、熱源(アイロン、ポット、炊飯器、ストーブなど)を子どもから隔離する、テーブルクロスを使用しない、などが要点です。

 事故に対する有効で簡単な防止策は存在し、それを実行すれば子どもの安全を確保できます。予防は治療に勝ります。事故予防をより詳しく知っていただくために、「街のジャングルブック(MCメディカ出版)」を貸本として用意しました。どうぞ御覧ください。
 

離乳食の新指針(2008年4月7日掲載) 2010年05月12日(水)

   昨年3月に厚生労働省から「授乳・離乳の支援ガイド」が発表されました。平成7年の「離乳の基本」から12年ぶりの改訂です。新しくなった指針をもとに、私見を交えながら、離乳食の基本の幾つかを解説いたします。

<離乳準備食としての果汁は必要ありません>
 生後5〜6ヶ月までの赤ちゃんの栄養源は、乳汁(母乳または育児用ミルク)だけで十分です。果汁を与える必要はありません。これまで果汁が勧められていた理由は、昔の人工乳が牛乳の組成に近く、ビタミンCが極度に不足していたため。しかし現在の育児用ミルクは十分量のビタミンCを含んでおり、果汁の栄養学的な意義はすでに失われています。それにもかかわらず、果汁が重視され続けた第二の理由は、「離乳に慣れる」という観点から。しかし、離乳食自体が卒乳に向けた準備ですから、「準備のための準備」は意味を成しません。さらに、栄養学的にも問題があります。たとえば、甘味を早い時期から覚えさせると、健全な味覚形成が損なわれます。果汁でカロリーが満たされることにより、肝心の乳汁の摂取量が減る恐れがあります。果汁の摂り過ぎは肥満につながります。生後4ヶ月以下で与えると食物アレルギーを招く恐れがあります。離乳開始前の果汁は赤ちゃんにとって弊害が多いことをご理解ください。
 ただし絶対に不可というわけではなく、乳汁以外のものを飲む姿に成長の喜びを感じる親御さんの気持ちは尊重したいと思います。果汁を与える場合は、湯冷ましで十分に薄めること、飲ませ過ぎないようにスプーンで少量ずつ与えることを心がけましょう。

<離乳食の進め具合は赤ちゃんのペースに合わせましょう>
 離乳の開始は生後5〜6ヶ月以降、赤ちゃんが食べ物を欲しがる時期に合わせましょう。生後5〜6ヶ月は、赤ちゃんが大人の食べ物に興味を示し、手で物をつかみ口に入れる動作を始める時期です。かつて早期離乳が勧められたこともありましたが、欲しがらないうちから無理に与えても利点は何もなく、赤ちゃんも嫌がって舌出し反応で拒絶します。離乳を急ぐ必要はありません。
 離乳食の量と回数は、赤ちゃんの欲しがる様子と食べっぷりを見ながら、焦らずゆっくり進めていきましょう。従来の指針では、離乳初期・中期・後期・完了期に分けられ一回あたりの摂取量が記されていましたが、細かい区分や数字にとらわれず赤ちゃんのペースに合わせれば、ほぼ間違いはありません。おおよその目安として、2〜3ヶ月ごとに回数を1回増やすペースで、生後9〜12ヶ月までに3回食にすればよいでしょう。栄養が足りているかどうかは、母子手帳の成長曲線に身長・体重・頭囲の計測値を書き込み、順調に伸びているかどうかで判断します。
 離乳の完了は生後12〜18ヶ月頃が目安です。離乳の完了とは、固形物をかみつぶせるようになり、栄養の大部分を乳汁以外の食物から摂取できる状態をいいます。しかし必ずしも断乳を意味するものではなく、赤ちゃんが求めれば母乳を続けても構いません。この時期の授乳は、栄養学的な利点よりも母子間の愛着形成の意義が大きいと言えましょう。

<フォローアップミルクは母乳や育児用ミルクの代替品ではありません>
 生後9ヶ月以降は鉄分が不足しやすいので、離乳食に赤身の魚や肉やレバーを取り入れたり、調理用に使用する牛乳や乳製品の代わりに育児用ミルクを使用するなどの工夫をしましょう。鉄分は体内に酸素を運ぶ赤血球の原材料になり、鉄分の不足は赤血球の減少すなわち貧血をもたらします。乳幼児期に鉄欠乏性貧血が3ヶ月以上続くと、脳細胞の機能が低下し精神運動発達に悪影響をもたらすことが知られています。
 この時期に、鉄分をはじめとする各種栄養素が強化された飲料として、フォローアップミルクの意義が強調されています。しかし、離乳が順調に進んでいる赤ちゃんにとって、フォローアップミルクは必須のものではありません。離乳完了までは母乳か育児用ミルクを基本とすればよく、とくに母乳をわざわざ止めてまでフォローアップミルクに切り替える意味はまったくありません。フォローアップミルクの問題点は、蛋白質をはじめとする栄養素が多すぎて、むしろ離乳の妨げになる場合があることです。フォローアップミルクは離乳完了期の牛乳代替品ととらえ、牛乳と同様に卒乳の一手段と考えるべきでしょう。牛乳に比べて鉄分が10倍ほど多く含まれているため、鉄分の摂取が不足しがちな子どもには適した飲料と言えます。

<「手づかみ食べ」は発達途上の大切な一段階です>
 新しい指針では、生後12〜18ヶ月にみられる「手づかみ食べ」が推奨されています。手づかみ食べは、目で見ることで食べ物の形や大きさを確かめ、手でつかむことで食べ物の硬さや熱さを確かめ、口に入れることで食べ物の味や舌触りを確かめるという、目と手と口の協調運動の発達を促します。「自分でやってみたい」という子どもの意欲や達成感も満たします。手づかみ食べは、行儀が悪いのではなく食器や食具を使いこなす前段階ととらえて、おおらかに見守ってあげてください。
 手づかみ食べを支援するポイントは、手づかみしやすい食事を用意すること(ミニおにぎり、野菜スティックなど)、汚れてもいい環境を作ること(エプロンを掛ける、床に新聞紙やシートを敷く)、子どもの食べるペースを大切にすることです。

 離乳食に厳密な定義と組み立ては必要なく、大まかに進めていっても間に合うものだと筆者は考えています。指針や育児書の細部にとらわれ過ぎて、赤ちゃんへの無理な押しつけが行われてはいけません。とは言うものの、初めての子どもを育てる親御さんにとって、心配や悩みの種は尽きないことでしょう。離乳に関するご質問がありましたら、どうぞ何なりとお寄せください。
 

食育のすすめ(2006年3月1日掲載) 2010年05月12日(水)

   食べることは生きるための基本です。伸び盛りの子どもにとって、「食」は単なる栄養の補給にとどまらず、健康の増進と維持、家族の絆の強化、食文化の理解と継承など、多くのことを体験し学習する場でもあります。食にかかわる子どもの育成、すなわち食育は、知育・徳育・体育とならび、子どもの健全な成長に欠かせない大切なものです。

 しかし理想とは裏腹に、現代の食生活はさまざまな問題をかかえています。たとえば、過食や脂肪過多による肥満と生活習慣病、思春期女性のやせ願望と拒食症、BSEや病原性大腸菌O-157に代表される食の安全性の揺らぎ、不規則な生活リズムと朝食の欠食、一家団欒とは無縁の孤食、外食や中食(市販惣菜やレトルト食品など)への依存により衰退する家庭の味、食べられずに廃棄される食品など、食の危機は至る所に存在します。その結果として、「食事がつまらない」「何を食べても同じ」と訴える子どもが増えています。生活習慣病の低年齢化や拒食症の増加も明らかです。私たち大人は今こそ子どもの手本となる食生活を実践し、食べる楽しさを子どもに伝えなければなりません。

 子どもの食べる意識の向上には、食べ物が食卓に並ぶまでの過程を教えることが第一歩になります。食材を選んで買う、野菜を作って食べる、料理や配膳を手伝う、などを子どもに体験させましょう。食べ物は最初から食べ物として存在するのではなく、自然の恵みを受けて動植物が育ち、それらが食品となり調理されて食卓に並ぶわけで、食の過程を知ることで食べることへの興味が湧き、「命あるものをいただく」感謝の念も生まれます。第二に、栄養バランスがとれて、季節の旬や繊細な味が感じられる献立を心がけましょう。元気な身体を作るための栄養素(主食と一汁二菜の組合せ)を考える力、五感と想像力を働かせて食べ物を味わう力は、良い献立を通して育まれます。外食や中食に頼りすぎたり、子どもの好みに迎合してばかりでは、子どもの健康観や味覚は伸びません。私たちの食文化を次の世代にぜひ伝えたいものです。和食の良さを見直してみませんか。第三に、食事は家族間のコミュニケーションをはかる大切な場です。単におなかを満たすだけでなく、楽しく会話することで気持ちも満たされます。食を介した一家団欒の意義を今一度、考えてみてください。第四に、食事をおいしくとるには生活習慣の改善が不可欠です。運動不足、不規則な間食・夜食、睡眠不足、心身のストレスなどが重なると、おなかが空かないし食事もおいしく感じられません。日頃から身体をよく動かす習慣をつけ、一日三食と間食(一日に一回、一品)のリズムを作り、食事が待ち遠しくなるような健康的な生活を送りましょう。空腹は最大の調味料です。

 心身の元気と健康のもとは食にあります。子どもだけでなく私たち大人も、生涯にわたって食育を意識して実践していきたいものです。
 

ファーストフードと肥満(2006年1月5日掲載) 2010年05月12日(水)

   わが国の肥満児は過去30年間で約3倍に増加しました。小学校高学年では8~9人あたり1人の割合です。肥満とそれに伴う生活習慣病は、今後さらに深刻度を増すことが予想されます。私事ですが、筆者は米国のセントルイス市で3年余り生活し、成人の約6割が過体重、うち3割が肥満という「肥満大国」の実態をつぶさに見てきました。米国人の問題は、生活様式の西欧化が進む日本人にとって他所事ではありません。今回のコラムでは、米国人の肥満化の元凶とされるファーストフード(fast food)を取り上げ、食習慣の問題について言及します。

 米国のファーストフード産業、とりわけハンバーガー店は隆盛をきわめています。どんな小さな町にも必ず一軒は存在し、若い家族連れから老夫婦まで大勢の人々でいつも賑わっています。ほぼ毎日通うマニアも珍しくありません。店員は概して無愛想で(スマイルは売っていません)、「スーパーサイズか?」「フライは?」「バリューセットにするか?」と矢継早に尋ねます。言われるままに注文すると超特大のボリュームになります。コーラのおかわりは自由です。この味と量に幼少時から染まれば肥満になるのも無理はない、と納得します。

 ファーストフードは、高カロリー、高脂肪、低食物繊維、低ビタミンの食品です。たとえばハンバーガー 大/ポテトM/チキン/コーラMのセットで、カロリーは1291kcal、脂肪は60g(カロリーの42%)に達します。これは成人男性の1日栄養所要量の半分を超えています。カロリー過剰よりもさらに深刻な問題は、小児期における味覚形成への悪影響です。食品に添加された脂肪は、本来は無味無臭ですが、血液に入ったのちに脳に作用して嗜癖性を高めます。「コレステロールそのものが旨い!」と極言する人もいます。小児期にファーストフードに慣れ親しむと、高脂肪食への嗜好を刷り込まれ、家庭でも同様の食事を求めるようになります。ファーストフードが危険な理由は、それ自体の栄養バランスが偏っていることに加えて、日常の食生活まで高カロリー高脂肪食に変えてしまうことです。

 ここまで述べてから白状しますと、筆者は仕事が忙しいときにハンバーガー店を利用します。早くて便利、味付けも日本人好みです。そもそも身体に悪い食べ物というのはなく、いかにバランス良くとるかが肝要です。ファーストフードの問題点を認識しつつ上手に利用するための心得は、1) 月1~2回以下、2) LやMよりSサイズ、3) セットメニューでなく欲しい物だけ、4) 子どもの言いなりにならない、5) おまけに惑わされない、6) 店員の誘いに乗らない(10人に1人はポテトを追加注文するそうです)、7) 飲料はノンカロリー、8) 前後の食事でカロリーと脂肪を減らす。米国のファーストフード事情は、「スーパーサイズ・ミー」というドキュメンタリー映画(2003年)をご参照ください。
 


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